政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

令和の外国語学習は、「ハードルを下げる」ことから

大山祐亮(福州外語外貿学院准教授)
写真:stock.adobe.com
(『中央公論』2026年2月号より抜粋)

今年こそ「今年こそ」を実現するために

 今回のテーマは「今年こそ外国語!」ですが、この「今年こそ」という部分に外国語学習の難しさが端的に表れていると思います。というのも、この言葉の後ろには「去年まではダメだった」という背景が透けて見えるような気がするのです。

 私にも覚えがある話です。海外の観光地の写真を見て「わあ素敵だな、一度は行ってみたいな。じゃあ現地の○○語はできたほうが良いよなあ」と思い、教科書を買ってくる。家に帰ってきてペラペラとめくり、すっかり満足して本棚へ。その後はたまに「そろそろ勉強するかな」と考えては少しやろうとするけれども、数日も続かない。多少続くことがあったとしても、忙しい日が一日挟まると気持ちが切れてしまい、本棚の肥やしへ。そしてまた新しい年になって、「今年こそ......」と決意する。語学に限らず、社会に出てからの勉強というものは、往々にしてこのようなものなのではないでしょうか。

 学生の頃よりも多少は経験を積み、ある程度は勉強のやり方もわかっているはずなのに、どうして毎年のように「今年こそ」となってしまうのか。それは気合の問題ではありません。試験勉強や受験勉強と、社会に出てからの勉強では、有効なやり方が根本的に異なるからです。

 例えるなら試験勉強は短距離走、社会に出てからの勉強は長距離走です。フルマラソンを完走しようという時に、最初から最後まで全力疾走しようとする人はいるでしょうか。もちろんいません。完走するには自分に合ったペースを守ることが大切です。勉強もこれと同じです。

 ところが勉強となると、最初から最後まで全力で頑張って完遂できると錯覚してしまう人がたくさんいます。全力で頑張らなければ完遂できないと思う人すらいるかもしれません。そうして、長期間の継続が困難な計画を立て、途中で挫折してしまう。挫折してしまうのは頑張りが足りないからだと思ってしまい、次の機会のための有効な対策を考えることもできない。これでは何度挑戦しても失敗するでしょう。

 これを踏まえたうえで私の考える語学のコツは、「楽しむこと」「無理して頑張らないこと」、そして「毎日少しずつやること」です。語呂良くまとめると「気楽・気軽・気長」でしょうか。受験を控えているわけでもない限り、「頑張ろう」という気持ちになると、かえって失敗しやすいのではないかと思います。

 真面目な方であればあるほど、語学は頑張って勉強してちゃんと習得すべきだと考えてしまいがちです。書籍やニュース記事がすらすら読め、不自由なく「ペラペラ」と会話ができるようになってはじめて外国語を習得したと言えるのだと。

 私はこのような考え方には反対です。スポーツであれば、やるからには必ずプロ選手を目指すべきだと言う人はいないでしょう。語学もそれと同じです。無理に「マスター」を目指さずとも、楽しめることがたくさんあります。日々の学習に向かうためのハードルは低ければ低いほど良いのです。

 そして、私たちが忘れがちなのは、現代はとにかく時間の余裕がない時代だということです。しかも、人間はどちらかというと頑張っているよりも怠けている方が普通です。自分のやる気や忙しさが如何様であったとしても折れずに勉強を継続できるよう、計画を立てる段階で自分自身をサポートしなければなりません。

 私のオススメは、どれだけ忙しくてもこれだけは最低限かならず毎日やる、という「最終防衛ライン」を決めることです。3分で終わるような内容で問題ありません。私の場合、「デュオリンゴ(Duolingo)」というアプリだけは必ず毎日やることにしています。

 というのも、少しずつでも毎日欠かさずに勉強していると、そのうち勉強を継続していること自体が勉強のモチベーションをくれるようになるからです。一日のうち23時間57分怠けたとしても、3分勉強したのであれば、それは勉強ができた日です。人間は忘れる生き物ですから、一年も経つと「3分」という具体的な数字はすっかり記憶から抜け落ちてしまい、「勉強が続いている」という自分にとって都合の良い記憶だけが残ります。たとえ3分だとしても、毎日勉強を続けることのメリットは計り知れません。

「最終防衛ライン」に限らず、日々自分に課す勉強量のノルマは、上げるよりも下げる方がメリットが大きいです。日々のノルマをかなり楽に達成できるようなものにしておくと、一日の早いうちに今日のノルマは達成できてしまったという安心感が得られます。

 そうなってしまえば気楽なものです。場合によっては、「今日はまだ時間があるからもう少しやっておこうかな。やっておくと明日のノルマが少し減って楽になるだろう」という感じでどんどん先までやってしまい、「結構進んで明日の分までできてしまった。明日は最悪休んでしまっても大丈夫だな」というところまで勉強が進む日もあるかもしれません。

 逆に目標を高くして、毎日頑張ってノルマを達成しようとすると、かなりつらくなります。それもそのはず、この場合には勉強時間の大半がノルマ「未達」を「達成」にする、つまりマイナスをゼロにするタイプの努力になってしまうのです。最初から最後まで、やらなければならないという義務感が勉強の場を支配します。

「頑張らない」というのは怠け者の言葉のように聞こえるかもしれませんが、裏を返せば、継続するのが負担になっていないという意味でもあります。むしろ、勉強において「頑張った」というのは、負担がかかっていることを示すサインです。逆説的ですが、頑張る人ほど挫折しやすく、頑張らない人ほど長続きしやすいと言えるのではないでしょうか。「好きこそものの上手なれ」の真意もこのあたりにあるのかもしれません。


(『中央公論』2月号では、さらに具体的な学習の進め方、語学をぶ際に指標となる「語族・類型・文化圏」、またオススメの言語などについて語られている。)

中央公論 2026年2月号
電子版
オンライン書店
大山祐亮(福州外語外貿学院准教授)
〔おおやまゆうすけ〕
1994年栃木県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。専門は比較言語学。2022年、博士論文『共通スラヴ語─印欧祖語からスラヴ語派に至るまでの音韻・形態法の通時的変化の研究』が第13回東京大学南原繁記念出版賞を受賞。
1