なぜ私だけ後継者を間違えなかったか
─ところで、北朝鮮問題の専門家のほとんどは、長男の正男氏か次男の正哲氏が後を継ぐだろうと見ていましたが、藤本さんはかなり前から、正恩氏が最有力候補であると発言してこられました。なぜ専門家は予想を外したのでしょうか。
藤本 専門家といっても、北朝鮮国内の確かな情報を持っていないので、「儒教の国だから長男が後を継ぐのが当たり前」ということくらいしか頭になかったのでしょう。その点、私は実際に将軍ファミリーの間近で一三年間も過ごしてきましたからね。
正男氏は、私は最初から除外していました。後継ぎであるならば、高官が集まったり、軍大将が出席するパーティで顔を売らないといけないはずですが、北朝鮮にいるあいだ、一度も宴会場などで顔を見たことがなかったですから。
私が北朝鮮を脱出したのが二〇〇一年四月二十四日。正男氏が成田空港で拘束されたのが一週間後の五月一日。それを報じるテレビニュースで初めて正男氏の存在を知りました。日本で連絡を取り合っていた公安の人間から、「おい藤本、さっそくお迎えが来たぞ」と冗談をいわれたくらいのタイミングでした。
女優・成琳を夫から略奪し、産ませたのが正男氏。その成琳も愛が冷めるとロシアに追放したわけで、そうした経緯もあわせて考えると、正男氏が後継者になる可能性は、私はゼロに等しいと思いました。
となると、最愛の高英姫夫人とのあいだにできた男の子のどちらかになります。将軍は後継者にふさわしいのが正哲大将なのか、正恩大将なのか、時間をかけて見極めようとしていたはずです。性格が将軍に似ているのも、皆で遊ぶときに常にリーダーシップをとるのも明らかに正恩大将のほうでした。正哲大将はとても心優しい少年でしたが、カリスマ性は感じられず、私の目にもリーダーとしての資質には欠けているように見えました。