2020年、最高の盛り上がりを見せた中国のEC商戦。女性インフルエンサーが一日で904億円売り上げることもあるライブコマースは今や脱貧困・格差是正の救世主に
2020年、中国はライブコマース元年を迎えた
企業のトップが自社商品を販売するだけではなく、地域産業振興のために地方政府の政治家たちがライブコマースに登場するケースも増えた。
コロナ前は多くの中国人が日本を訪れてまとめ買いする姿を記憶している読者も多いだろう。観光庁が2019年に実施した訪日外国人消費動向調査によると、国別では中国が全体の約3分の1を占める1・77兆円だった。
日本製品を好む中国人が活用したのが「越境EC」だ。国境を越えて商品を販売する通信販売手法で、ここでもライブコマースが幅広く利用されている。
在日中国人が日本製品を中国人向けに販売するのが一般的だが、日本のインフルエンサーが登場し中国のファンと交流する試みも始められている。
2020年12月、アーティストの村上隆氏が中国人向けにライブ配信を行い、中国のファンを喜ばせた。日本語から中国語にAI翻訳され、リアルタイムで字幕が表示される仕組みだ。関連商品も含めて、売上は1000万円を超えたという。
中国には、日本の芸能人やアーティストなどのコアファンが多い。AI翻訳を使ったイベントやライブコマースはさらに増えていくだろう。
以上のように、新型コロナ禍でリアル消費が大打撃を受けた2020年にライブコマースは大きく躍進した。中国調査会社の「艾媒咨詢iiMediaResearch」によると、2020年の1年間で中国ライブコマース市場は9610億元(約16・3兆円)に達し、19年の4338億元(約7・37兆円)から倍増した。
2020年に「ライブコマース元年」を迎えたのである。
※本稿は、『数字中国 デジタル・チャイナ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
西村友作
新型コロナの震源地・中国はなぜ感染を抑え、プラス成長を達成できたのか? 当局はなぜアリババ集団ら巨大ITへの統制を強めるのか? コロナ禍にあえぐ米欧を横目に、中国はデジタル防疫・経済成長・デジタル金融の三位一体を実現。そこには覇権的な政治体制だけでは説明できない、重要な経済ファクターがある。民間需要を取り込み、政府主導で建設が進む「数字中国(デジタル・チャイナ)」がその答えだ。日本にとってビジネスのチャンスか、経済安保上のリスクか。現地専門家が、ベールに包まれた“世界最先端"のDX戦略の実態を描き出す。
1974年熊本県生まれ。中国・対外経済貿易大学国際経済研究院教授、日本銀行北京事務所客員研究員。専門は中国経済・金融。2002年より北京在住。10年に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士号を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同大副教授を経て、18年より現職。著書に『キャッシュレス国家』(文春新書、2019年)がある。メディアでは主に中国のフィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。『日経ビジネス』にて「西村友作の『隣人の素顔』――リアル・チャイナ」を連載中。