一律関税で「製造業を取り戻す」
会田 関税を引き上げて、どのようなメリットがあると想定するのか。世界貿易が縮小し、1930年代の関税引き上げのように経済圏のブロック化をもたらし、戦争の危機につながりかねないという批判もある。
ルビオ国務長官は、米国が一極で主導する世界というのは異常であり、世界は「多極化」に向かっていると述べた。これは、ブロック化を容認しているように聞こえる。
トランプ大統領は「関税王」と呼ばれたマッキンリー大統領が議員時代から進めた高関税による国内産業振興をモデルにしているといわれるが、1890年の「マッキンリー関税」は不況をもたらし、物価高の中で労働者や農民は苦しみ、マッキンリー自身、大統領になってからは高関税に否定的になったともいわれる。
キャス 米国の貿易赤字は、WTO協定が合意される前年の1993年には700億ドルだったのが、昨年は9000億ドルにまで膨らんだ。対外純資産はマイナス23兆ドルにまで下がった。製造業が衰退し、製造業雇用は2000年比で35%減だ。
特定の国の不公正な貿易慣行に課す関税には赤字を減らす効果がある。だが、米国の製造業を取り戻すには、一律関税の導入が必要だ。2018年、中国の不公正な貿易慣行に課した追加関税で中国からの輸入は急減したが、中国は他国に製造拠点を移したため、対中赤字は減らせても赤字全体は減らず、製造業が米国に戻ることもなかった。だから一律10%関税引き上げが必要だ。実施により2兆ドルの歳入が見込め、貿易赤字だけでなく、財政赤字も減らせる。
そこからの長期的ビジョンについては、ルビオ国務長官らの発言に基づく政権の狙いに、私自身の期待を交えて説明したい。こうした関税政策を通じて、多極世界へと向かう明確で期待の持てる道筋が見えてくる。米国は多極世界の中で、日本を含めた志を同じくする国々と強固な政治・経済同盟を形成していく。この多極世界で、中国の利害はわれわれと対立している。中国より米国の側に属したいと強く望む同盟国には、一層の貢献を求めなければならない。
(『中央公論』6月号掲載の対談では、この後も日本への対中自力防衛の要求や、製造業復活にこだわる思想的背景、トランプ政権を支える保守勢力諸派の内幕などについて詳しく論じている。)
1983年生まれ。ハーバード大学ロースクールJD(法務博士)。コンサルタント企業などを経て、2020年に保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」を設立。「改革派保守(リフォーモコン)」の中心人物の一人として知られる。著書に『The Once and Future Worker』(未邦訳)がある。
◆会田弘継〔あいだひろつぐ〕
1951年埼玉県生まれ。東京外国語大学卒業。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを経て、青山学院大学教授、関西大学客員教授を歴任。著書に『増補改訂版追跡・アメリカの思想家たち』『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』など。