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キューバはベネズエラの「次」なのか(仮)

上 英明(東京大学准教授)
写真:stock.adobe.com
 世界に衝撃を与えた米軍のベネズエラ攻撃。マドゥーロ大統領を警護していた多くのキューバ人が戦死したことも話題になった。その背景にあるキューバ独特の歴史とは?
(中央公論4月号より冒頭部分を抜粋)
  1. カラカスの未明─大統領警護隊の殉職
  2. 冷戦を乗り切った抑止力

カラカスの未明─大統領警護隊の殉職

 2026年1月3日、ベネズエラの首都カラカスの未明のことである。トランプ大統領の指令を受け、米軍特殊部隊が、マドゥーロ大統領とその夫人を拉致(らち)せんと奇襲を仕掛けた。爆撃を加え、停電を起こした上で、ヘルメットと防弾チョッキ、暗視ゴーグルで身を包み、航空機やヘリコプター、ドローンの群れに守られた部隊が、世界中を驚かせることになった。これに決死の抵抗を試みたのが、「大統領を連れ去ったり殺害したりするには、私の屍を乗り越えるのみだ」と宣言していたアルフォンソ=ロカ大佐をはじめとするキューバ人の大統領警護隊である。

 不意を打たれ、数的にも軍備上でも圧倒的に不利な状況にありながらも、彼らは戦った。先に倒れた仲間を救護していたロドリゲス中佐は、敵のドローンに撃たれるや、「私は負傷した。キューバ万歳!」と最後に叫んだという。結局、アルフォンソ=ロカをはじめ、警護隊の32名が戦死した。

 彼らの遺体は、ほどなくキューバ政府に引き渡され、追悼式典が行われた。演壇に立ったディアス=カネル大統領は、この殉職者たちを英雄として称賛し、遺族を慰め、国民の団結を説き、キューバの主権と領土を守る決意を新たにした。もし自国が攻撃を受けるようなことがあれば、独立戦争、革命戦争、冷戦、そしてカラカスでの戦闘で見せた「何世代にもわたる勇敢なキューバの戦闘員たちから受け継いだ激しい闘志をもって戦う」のだと。その上で、威嚇と強要には決して屈服せず、対等な条件と相互尊重に基づく交渉をトランプ大統領に要求している。

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