生涯学び続ける時代に
楠木 櫻田さんの『「定年後知的格差」時代の勉強法』には、定年前後の学びの具体的事例がたくさん紹介されていて参考になりました。同書で博士号を取得して大学教員職に就く方法が紹介されていますが、私の知人にも市役所を定年退職して大学の教員になった人がいます。もちろん、そこまで本格的な学びに取り組む人は全体としては少数なのでしょうけれども、大学の他にも、カルチャーセンター、公民館などで行われる手作りの研究会など、学びの場はいろいろ広がっていますね。
櫻田 ありがとうございます。日本人の平均年齢はいま48歳だそうですね。定年が今後70歳まで延長されると、情報化社会においては学部4年間の学びだけでは不足すると思うのです。何らかのかたちで学び続ける、あるいは学び直すことが今後増えていくのではないでしょうか。
現在、インターネットの使用率は70~79歳で74%、60~69歳は90%です(令和元年、総務省調べ)。スマホの爆発的な普及もあって、世代間の「デジタル・デバイド」はかつて心配されたほど広がっていないようです。YouTubeなどのネット動画を見て独学できる環境も整っています。あるいはGoogle検索で簡単に知識を得ることだってできる。
ただし、私はネットを使った独学やカルチャーセンターよりも、大学や大学院を強くおすすめします。なぜなら大学には単位取得という明確な目標があって、ある程度の強制力のもとで勉強する環境が整っており、なおかつ自分で問題を発見して、解決する能力が身につくからです。それに大学に籍を置けば、図書館や学生食堂も使い放題。プールやテニスコートだって学割で使えます。(笑)
もちろん、ご指摘の通りシニア層で修士や博士をめざす方は少数派なのかもしれません。しかし、年齢にかかわらず常に学び続けなくてはいけない時代と世界がすぐそこまで来ています。そのために、ネットを使いこなせることがますます重要になっていくことでしょう。
楠木 ビジネスの現場にいた私の実感としては、学部4年間の学びだけでは、40歳の時点だってとても持ちません。ただ、巷でよく言われる「リカレント教育」や「学び直し」には二種類あるように思っています。一つは、櫻田さんが言うように、仕事のための学び直しです。たとえ70歳になっても働くために技量を身につけないといけない分野はもちろんある。もう一つは定年後の自分の楽しみのための学びがあります。楽しくやっていると大体仲間ができるもので、「まあええか」と気負わずゆっくり学んでいく。そのなかで私がいいと思うのは、いままで気づかなかった自分を発見している人です。学んだことが仕事の上で直接役に立つかどうかはわかりませんが、「ああ、俺はこんなことが好きだったんだ」と新しい人生を見つめ直す人たちがいるのです。
櫻田 その点は私も全く同感でして、「自分の再発見」は、勇気を振り絞って講演会へ行ってみるなど、自分から能動的に求めていかないと与えられないものですよね。「自分の再発見」は、私が拙著で紹介した「能動的知的生活」と通じているように思いました。
これは何かというと、たとえば新聞の投書欄に投稿してみる、ブログで感想を書いてみる、あるいは論文を書いてみるといった行為です。逆に「受動的知的生活」とは新聞を読んだり、テレビを見たり、映画を見たりして、それを家族と話すくらいの生活を指します。能動的知的生活はシニアにとって非常に楽しく、やりがいのあるもので、教えたり書いたりする行為が脳を活性化させ、健康的な効果も期待できます。(中略)