(『中央公論』2021年11月号より抜粋)
- 「おひとりさま」が当たり前の時代
- 「家族が介護する」時代は終わった
「おひとりさま」が当たり前の時代
今回の特集が「一人で老い、一人で死ぬ社会」だとか。このテーマを長年追ってきた私からすれば、何を今さらと言いたいところですが、まあいいでしょう。ひとりで死ぬことは、良いも悪いも否も応もない現実ですから。
私が『おひとりさまの老後』を書いたのは2007年。年寄りがひとりで暮らしていると、「おかわいそうに」「おさみしいでしょう」と言われるので、「大きなお世話、むしろひとりは楽しい」と言いたかったからでした。それから十数年が経ち、「おひとりさま」への理解も広まったように思います。
最初に、高齢化した日本でのおひとりさまの増加について数字をおさらいしておくと、日本の2019年の総人口は1億2617万人、65歳以上人口は3589万人で、高齢化率は28・4%。65歳以上のうち、男性は1560万人、女性は2029万人です。
65歳以上の高齢者がいる世帯数は2558万世帯で、全世帯数の49・4%を占めます(国民生活基礎調査2019年)。65歳以上がいる世帯で、「三世代で暮らす世帯」は1986年には4割を超えていましたが、2019年には1割を切って9・4%、「夫婦世帯」が32・3%、「独居(単独)世帯」が28・8%です。夫婦世帯は、いずれ死別・離別しますから、近い将来、高齢者の独居世帯率は半分以上になるでしょう。ちなみに2015年の数字では、独居する男性は180万人、女性は383万人と出ています。女性は男性の倍、とはいえ男性にとっても「いずれはおひとりさま」は他人ごとではありません。
本誌の読者は中高年男性が多いということなので、男性中心の話をしましょう。近年は男性の生涯非婚率が上がっていますが、それが上昇しているのは60代以下。読者の皆さんも実感があるように、今の高齢者層は既婚率が高く、70~74歳の男性の有配偶率は83・2%です。私は「おひとりさま」についていろいろと調査してきましたが、高齢男性の特徴は、自分が妻よりも先に死ぬと思い込んでいることです。確かに夫妻の年齢差や男女の平均寿命の違いを考えれば、そうなる可能性はあるけれど、たんなる確率、自分がそうなる保証はありません。なのに男性は自分にとって「不都合な真実」を考えないようです。その結果、いざひとりになって痛い目に遭っている人をたくさん見てきました。
では、「男おひとりさま」になるとどうなるか。今の高齢男性は、生活のほとんどを妻に任せてきたので、自分の健康管理ができません。単身赴任の経験がある人も多いはずですが、生活的自立能力は低いと言っていいでしょう。ただ、「男やもめに蛆がわく」と言われていた時代と比べると、今は強力な都市インフラ、つまりコンビニや、冷凍食品、中食市場等が充実しています。だからとりあえず食べていけるし、暮らしていける。家事能力が低くても生きていける、よい時代になりました。しかし、食べ物が健康を作るという基本の「き」がわかっていないため、コンビニ弁当を食べ続けるうちに体調を崩してしまう例も多くあります。