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弘兼憲史×楠木 新 60歳からは身軽で新しい自分へ――「人生の仕上げ」の秘訣を語る

弘兼憲史(漫画家)×楠木 新(元神戸松蔭女子学院大学教授)

会社は友人を見つける場でもある

弘兼 最初に年賀状の話をしましたが、年賀状をやめるというのは、旧来の知人を「リストラ」することにつながります。


楠木 そういうことになりますね。


弘兼 僕はまだ現役の漫画家なので、人脈作りは欠かせません。だからゴルフ会なんかも、意図的に業界以外の人を呼んで、視野を広く保つ努力は続けているんですよ。でも、仕事に必要な人脈と、プライベートの友人は、全く別の存在です。


楠木 その友人に関しては、年齢を重ねるごとに「厳選」していくべきだ、とおっしゃるわけですね。


弘兼 その最大の理由は、単純にお金がかかることです。歳暮や中元をもらえば返さなくてはいけない、奥さんが亡くなったといえば香典が必要だ、と。「たくさんの友達」がいると、これがバカになりません。


楠木 しかも、年賀状のやり取りだけみたいな人が、わんさかいると。


弘兼 リアルに大変な出費になります。そもそも、自分にとって必要な友人、親友というのは、どういう人間か? 僕は、「妻がいるのに、好きな女性ができてしまった。どうしよう?」という話を相談できる相手だと思うのです。あくまでも、例えば、ですが。


楠木 いや、とても分かりやすい親友の定義だと思います。(笑)


弘兼 若い頃は、雑多な人間とワイワイやることも必要です。でも、60歳を過ぎたら、本当の友達が5人いれば十分。70歳になったら、1人や2人でいいかもしれません。


楠木 非常によく分かります。ただ一方で、リタイア後の男性には、そういう「1人や2人」のいない人も少なくないのでは、と感じるのです。


弘兼 男性は、やっぱりプライドが邪魔をして、人に相談せずに自分だけで抱え込むことが多いですからね。それだと友人もできにくい。


楠木 人それぞれでしょうけど、私は会社も重要な出会いの場だと思うのです。弘兼さんは「人脈」とおっしゃいましたが、私自身は、会社には友達を作りに行っていたようなところがあって。


弘兼 経営者が聞いたら、怒るかもしれません。(笑)


楠木 これには、私の育ちも多分に関係しているのだと思います。神戸の歓楽街の真ん中で生まれて、周りにいたのは、商店主や職人やアウトローの人たちで「我が道を行く」タイプの大人ばかり。ところが、会社に入ったら、みんな上司の言うことを素直に聞いて、一生懸命に働いているわけです。


弘兼 それは、ギャップが大きかったでしょうね。


楠木 当時はサラリーマンが不思議な存在に見えました。で、せっかくいろんな人間が全国から集まっているのだから、仕事だけではなくて、何でも話せる友人を見つける場として会社を活用すればよいのにと何度も思いました。転勤すれば各地域に友人を見つけることもできます。仕事の書面をじっと見つめる時間の一部を友人を作ることに充てれば、より充実したサラリーマン生活を送れると思うんですよ。


弘兼 なるほど。


楠木 サラリーマンは、会社を辞めたら急に人と会わなくなりますが、現役のうちに友人を探しておけばよいのです。パソコンの画面や書類などを見ているだけではもったいない。

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