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尾久守侑×中元日芽香 「推す」心理、「推される」心理の向こう側

尾久守侑(精神科医・詩人)×中元日芽香(心理カウンセラー・元乃木坂46)

相手に合わせすぎる人

中元 尾久先生は、ご自分が持っている「偽者」の特徴を仕事に使っているところはありますか? というのは、『偽者論』のなかにあった「あえての自己開示」──自分の核心に迫る話にならないように、あえてある程度のぶっちゃけ話をするということですが──、私自身これを無意識にカウンセリングの場面で使っていたと気づきました。本を読むと尾久先生も、患者さんひとりひとりに合った診療を見極めようとするときに、「すごく相手の調子に合わせられる」というご自身の特徴を使っているのではないかと思ったんです。


尾久 あり得ますね。特に初回の診療では、患者さんと信頼関係を築くために、「この人なら分かってくれそう」「通ってみようかな」と思ってもらえる感じが多少はあったほうがいいと思っているので。自分から患者さんに寄っていく、「相手と周波数を合わせていく」感じがある。


中元 「相手と周波数を合わせていく」というのは私にも当てはまります。著書のなかで、周波数に細かくチャンネルがある人と三つしかない人の例を挙げていらっしゃいましたが、私は細かいチャンネルを持っているほうだと思います。人に比較的容易にピタッと合わせられる。逆に自分から話すときに、自分の周波数は分からないのですが。


尾久 私も人に合わせてばっかりで自分がない。自分の意見がなくて「結局、自分は何を考えていたんだろう」と思うことは多いですね。特にプライベートでは。


中元 ほかの人はどうなのでしょう。


尾久 合わせられない人、しない人、意識せずできちゃう人、あえてやらない人、いろいろでしょうね。


中元 自分では合わせられていると思っているけれど、実際はずれている人もいそう......。ただ、世の中に「人に合わせるのって大事だよね」という風潮はありますよね。


尾久 私が『偽者論』で使った「相手と周波数を合わせる」は、よく言われる「空気を読む」に近いと思うんですが、それって多くの人が小学生ぐらいからやってきていることだと思います。「空気を読めない」と辛いことも多いですしね。人に合わせすぎるのはしんどい。でも、周りと合わせないとはみ出し、叩かれて傷つく。結局、両方しんどいんですよね。


中元 「仲間外れにされるんじゃないか」と思って、合わせようと努めてしまうのでしょうね。

(続きは『中央公論』2023年5月号で)

構成:秋山圭子 撮影:大河内 禎

中央公論 2023年5月号
電子版
オンライン書店
尾久守侑(精神科医・詩人)×中元日芽香(心理カウンセラー・元乃木坂46)
◆尾久守侑〔おぎゅうかみゆ〕
1989年東京都生まれ。横浜市立大学医学部卒業。現在は慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に所属。詩集に『国境とJK』『ASAPさみしくないよ』『悪意Q47』、医書に『器質か心因か』『サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床』などがある。近著に『偽者論』。

◆中元日芽香〔なかもとひめか〕
1996年広島県生まれ。早稲田大学卒業。2011年から6年間、アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活動。グループ"卒業"後、18年から心理カウンセラーに。著書に『ありがとう、わたし——乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』がある。
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