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廃業寸前サウナが「西の聖地」に......名店「湯らっくす」から見た熊本地震後の8年

西生吉孝(「湯らっくす」社長)

廃業寸前......熊本地震が転機に

 帰ってみると、店は債務超過に陥っていました。何もわからず継いだ姉に任せ切ってしまっていたので仕方がないとはいえ、とにかくお金がなくて大変でした。売上を見て驚くほど、状況は厳しかった。

 そしてその4ヵ月後、熊本地震が発生します。店も停電や設備の故障などの被害を受けましたが、修理業者はなかなか来てくれません。結果的に2週間ほど、稼働できない日々が続きました。でも今となっては、それが良かったのだと思います。すぐ動き出さなかったおかげで、考える時間ができたからです。

 当時の私は、いわゆる「イクメン」でした。妻が仕事に出て、私が子どもの面倒を見るという子育て中心の生活だったため、父親として子どもに誇れる存在でいたいと常々思っていました。熊本地震が起きたとき、不謹慎かもしれませんが、熊本が日本全国から注目を浴びるなんて、一生に一度あるかないかの機会だ、いま私が何をしたかは、子どもたちの記憶に生涯残るだろう、では何をすべきか、と真剣に考えました。

 そこで、電気が復旧し、お湯が出るようになると、災害ボランティアや近隣の人たちを無料で招待することにしました。さまざまなメディアに取り上げられ、「ボランティアの聖地」と呼ばれるようになりました。

 ボランティアはいい人ばかり。おかげで店の空気がみるみる良くなっていきました。店を辞めると言っていたのに、ボランティアの人たちから感謝されるうちに「もう少しやってみます」と踏みとどまった従業員もいます。温浴施設は地域に不可欠な存在であることも実感できました。今の「湯らっくす」の成功は、そこから始まったと思っています。

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