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なぜ、「政権構想」はここまで空虚になったのか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×星浩(朝日新聞編集委員)×飯尾潤(政策研究大学院大学教授)

飯尾 そもそも衆参の「ねじれ」を言い訳にしすぎです。その状況下で妥協点を探っていくのが政治であるはずなのに、何をやりたいのかがわからないから妥協のしようがない。一方の自民党も政権復帰をねらう「責任野党」の任を果たしているとはいえません。三月に上げなければいけなかった特例公債法案を八月まで"塩漬け"にしてしまったのが、与野党の無責任さをよく表しています。

橋本 ざっくりした話をすれば、今の市場主義経済を否定するのなら別ですが、そうでなければ誰が国政を担ってもやるべきことはそう大きくは違わないはずなのです。であれば、両党は力を合わせるべきところは合わせて、事態を前に進めないと。

 政党である以上、民主党も自民党も違いをアピールすることは重要です。同時に、七〜八割は政策が重なるのだから、その部分はどんどん法案化して実現を図る。それも二大政党制下の政党の役割です。

飯尾 現実は逆で、大きな問題だからこそ、対立の構図を作れば自分たちに有利な状況が生まれるのではないかという発想が多くて感心しません。

橋本 野党も国政を担っているという自覚がないから、徹底抗戦かそうでないかの二者択一になっているような気がします。党利党略の前に、国の行く末について共同責任があるんだということを、与野党ともにあらためて考えてもらわなければいけない。

飯尾 当座のウケをねらうのではなく、余計な批判は呑み込んで協力する、まして与党内で足の引っ張り合いはしない、そういう政党、政治家の資質が問われるところに来ています。

「白馬の騎士」はいない

橋本 政治家、なかんずく総理大臣の命は自分だけのものじゃない。文字どおり、国家の命運を握っているんですね。その重みを認識している人が今の永田町にどれくらいいるのか考えると......。

飯尾 あまりに安易ですよ。今回の代表選も、立候補する人がいなくて困るくらいが本当でしょう。「こんな最悪の状況で私にはとても総理は務まらない」と辞退者続出となるはずが、「俺も俺も」と候補者乱立なのですから。

橋本 やはり謙虚さがない。

飯尾 謙虚さがなければ、前の人たちの轍を踏むことになる危険性が大きいのではと心配しています。

 ただ、自戒の意味も込めていえば、われわれメディアにも問題があると感じます。危機になればなるほど「資質の高いリーダー」を待望し、それが現れれば、世の中がすべてうまくいくかのような幻想を振りまくところがある。今の日本が抱える危機は「白馬の騎士」が登場して片付くようなレベルの問題ではないはず。政党が組織で取り組まなければ解決できない複雑な問題ばかりです。

橋本 確かに、政治家ばかりでなくマスコミも反省が必要ですね。一ヵ月ごとに内閣支持率をデカデカと報じることが、必ずしも政治をよい方向に導くとは限らない。

飯尾 日本の政治は問題山積ながら、とりあえず前に動かさないと困るのは国民です。新政権に提案したいのは、まず前政権の総括をしっかりやること。そのうえで、震災復興を中心とした当面の課題、そして総選挙後を展望した政権構想を、「二階建て」で提示すべきだと思います。

 野田首相は「民主党にとっても日本にとっても瀬戸際」と話している。二大政党が、独自性を発揮すべきは発揮し、譲歩すべきは譲歩して政策を作り上げていけるのかどうか。政党政治にとっても瀬戸際だと思います。

(了)

〔『中央公論』2011年10月号より〕

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