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老人キラーの恐るべき人脈術

特集◆徹底解剖 橋下徹  より
森功(ノンフィクション作家)

 いまだ七〇%以上の支持率を誇る橋下徹の人気には、多くの要因があるに違いない。大阪府知事選に当選してからすでに四年あまり、さほどの浮き沈みなく、高支持率を保っている。政策や発言が一貫しているわけでも、実績が買われているわけでもない。それでいて、ここまで高支持率を保ち、いつしか人脈を広げてきた。

 三月十三日付の『朝日新聞』では、〈「維新八策」原案を公表 橋下流を考える〉と題し、〈ブレーンずらり55人〉との見出しの下、大きく紙面を割いてその人脈を分析している。評論家の堺屋太一から慶大教授の上山信一、経産省OBの古賀茂明、名古屋市長の河村たかしや東京都知事の石原慎太郎、さらに最近親しくなったとされる民主党政調会長の前原誠司にいたるまで、錚々たる顔ぶれが並ぶ。あたかも五五人のブレーンたちが、橋下徹率いる大阪維新の会を支えているかのようだ。

 大阪市長という地方都市の首長でありながら、中央政界の重鎮たちまで機嫌をうかがう。橋下徹はいま最も日本でスポットライトが当てられ、注目されている政治家といえる。
 その橋下人脈の広がりは、政策との因果関係より、人気という要素が強いように思える。タレント弁護士から知事に転身した当初、橋下の周囲には、これといったブレーンや側近は見当たらなかった。が、橋下人気が定着するにつれ、次第に人が吸い寄せられた。とりわけ昨秋の大阪ダブル選挙を境に、一挙に交友が広がった。政界などでは・橋下詣で・なんて流行り言葉まで生まれたほどだ。

 だが、人脈の顔ぶれをみると、妙にアンバランスというか、どうにも違和感が残るのである。ここまで膨れ上がった注目政治家の人脈について、いま一度整理してみた。

ご都合主義だから広がる

 橋下徹のブレーン軍団の中で、最大の理解者であり、最も古い付き合いなのは、評論家の堺屋太一だろう。旧通産省出身で大阪万博の立役者でもある堺屋は、大阪の政界に一定の影響力を持ってきた。二〇〇七年十二月、一介のタレント弁護士から、突如大阪府知事選挙に立候補すると表明した裏には、この堺屋の・推薦・があった。四十二歳と七十六歳。年齢は親子ほど違う。老人キラーと呼ばれる橋下の人脈形成の原点が、堺屋だともいえる。

 橋下本人について堺屋に聞くと、「これまでいなかった市民感覚の政治家であり、改革者を見つけた」と手放しで褒める。だが、当時、橋下が政治家を志した動機や政策については、これといった特徴を見いだせない。というより、通産官僚から大阪府知事となった太田房江の対抗馬として、橋下を見いだしたといったほうがいいのではないだろうか。太田は自民党旧経世会(現、額賀福志郎派)の後押しにより、知事になった。堺屋と同じく元通産官僚だが、規制改革、脱官僚派の重鎮である堺屋とはそりが合わなかったようだ。

 そうして知事就任後の政策は、新自由主義の色彩が濃くなる。ブレーンに脱官僚組が多いのはそのためだ。慶大教授の上山信一は旧運輸省OB、ダブル選挙後、大阪府市統合本部の特別顧問に就任した古賀茂明や原英史はいずれも元経産官僚だ。ちなみに古賀は先のダブル選挙において、大阪維新の会の知事候補として橋下や堺屋が口説こうとした人物でもある。
 最近、橋下は小泉純一郎と比肩されるようになったが、政策面はかなり似ている。小泉の規制改革路線も、元英首相マーガレット・サッチャーの新自由主義政策の焼き直しであり、さらにそれを引き継いでいる感がある。たとえば競争原理の導入を教育現場に持ち込むと橋下は唱える。それは英国で始まり、元米大統領ジョージ・ブッシュが失敗に終わった政策と共通点が多い。

 敢えていえば、政策に古さを感じさせないところが、橋下流かもしれない。そして、目くらましが橋下の強みである。なぜ、それができるのか。

 橋下がブレーン軍団の中核を占める脱藩官僚たちを取り込んだ狙いは、政策の立案だけではない。橋下は自著『体制維新』の中で、しばしば官僚の手を借りなければ政策は実現できない、とも語っている。そのあたりが脱官僚、政治主導一辺倒で身動きがとれなくなった民主党との違いだと強調しているわけだ。が、そういいながら、半面で公務員や官僚と闘う姿勢を鮮明に打ち出している。目下、大阪市の交通局や教職員、労働組合を相手にバトルを展開しているのも、役人をやっつけるという錦の御旗に沿った戦略だ。

 柔軟性といえば聞こえはいいが、簡単に政策転換や路線変更する姿は、ご都合主義に近い。そうして五五人もの幅広いブレーン軍団を構成してきたのではないだろうか。政策面で新自由主義の色合いを打ち出してはいるが、練りに練って考えられたものではない。政策そのものがどこかの受け売りを独自の政策のようにぶち上げているだけに、あっさり撤回する。それは対人関係にも同じことがいえるのではないだろうか。

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