日本はコロナ対応を上手くやっているのか
最後に日本について考察したい。日本のランキングは一四位であり、冬の感染拡大でややランキングを落としているものの、相対的には悪くない順位と言える。
日本のコロナの感染拡大とその対応については、欧州と類似している点がある。欧州も日本も冬に感染者数が急増し、医療逼迫のリスクが高まったことから、封じ込め政策を強化してきた。昨年春のような厳しいロックダウンではなく、より緩やかな行動制限、例えば職場などは極力閉鎖せず、飲食業などに対する夜間時間帯の営業制限などにとどめている点は共通している。
ただし、「コロナ被害」「経済被害」ともに日本は欧州各国と比較して軽微だ。欧州では感染者数がなかなか抑制できずに苦戦する一方で、日本は感染者数が少ない段階で緊急事態宣言を発出し、感染者数もピークアウトしている。
個人的には、日本の動きが迅速だったというよりも、医療逼迫の状況が、欧州に比べて感染者が少ない段階で訪れたために、行動制限に踏み切らざるを得なかった面もあると見ている。
「経済被害」においては、日本も近年はインバウンドによる需要を重視し、観光関連産業などの対面サービス産業が盛り上がっていたため、こうした産業はコロナ禍で大きな打撃を受けている。ただし、経済全体で見たこれら産業のシェアは欧州と比較して小さい。
さらに欧州では、英国のジョンソン首相が「従来のウイルスより感染力が最大で七割強い可能性がある」と指摘した変異株が急速に蔓延している。英国では、昨年三月と十一月にロックダウンに踏み切ったが、感染が再び急増していることから、今年一月から三回目となるロックダウンを実施している。三回目のロックダウンでは、学校での対面授業をやめるなど、二回目のロックダウンより基本的に厳しい措置を講じている。感染力が強いウイルスが優勢になると従来の封じ込め政策による感染抑制が難しくなり、コロナ被害、経済被害ともに深刻化してしまう可能性が高い。
結果的には日本は欧州と比較して、上手くやっていると言えそうだが、やはり重要なのは、今後の出口戦略、緊急事態宣言を終え、いかに収束へ向かわせるかである。
政策としては、日本でも「ゼロコロナ」を目指すべき、あるいは「TTI政策」の観点からもPCR検査をもっと拡充すべきといった声も聞かれる。一方で、日本のように人口が多い民主主義国では感染者ゼロは現実的ではない、大量の検査は費用対効果が得られないといった反論も聞く。
政策の是非に関するコメントは差し控えるが、ランキング上位国は、政府がコロナ対策の目標や戦略、戦術を国民に丁寧に説明し、また国民の政府への信頼も高い点で共通しているように思われる。少なくとも日本政府もコロナ禍について、どのような戦略、戦術で乗り越えていくのかを、その根拠とともにしっかりとメッセージとして発信し、国民からの支持獲得を目指すことが重要と言えるだろう。
〔『中央公論』2021年4月号より〕
1984年群馬県生まれ。2006年東京工業大学卒業後、日本生命保険相互会社入社。日本経済研究センター、米国カンファレンスボードへの派遣を経て、現職。専門は欧州経済、国際経済。