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電子政府が高める市民生活の利便性

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第2回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)
エストニア・タリンに建つ独立戦争戦勝記念碑(写真提供:写真AC)
第1回では、エストニアと韓国が国家の危機を好機に変えて電子政府化を推進し、世界有数のデジタル先進国に発展を遂げた経緯を紹介した。第2回では、両国の市民が電子政府から実際にどんな恩恵を受けているのかを報告する。

「結婚・離婚・不動産売買」以外すべてオンライン化

国連電子政府ランキングで3位のエストニア。15歳になると、「e-ID」と呼ばれる国民カードを取得する義務が生じる。

このカードには国民一人ひとりに付与した「通しナンバー」が記載されており、それとすべての行政サービスが紐づけられる。運転免許証や健康保険証、欧州連合(EU)内のパスポートなどとして機能するため、このカード1枚あればそれぞれを持ち歩く必要はない。

エストニアで現在販売中のWindowsパソコンには、本体の横にカード挿入口が常備され、このカードを挿すとパソコン使用者個人の存在を証明できる仕様になっている。カード挿入がパソコンを本人が操作している証明となり、インターネット上で各種の行政・民間サービスを利用できるのだ。

住民登録から納税、会社登記、医療、教育、警察に至るまで、手続きの99%がオンラインで完結するという。2005年には地方議会選挙において世界初の電子投票も実現した。

逆にオンライン化していない行政サービスが3つあり、それは結婚、離婚、不動産売買だという。

その理由について、駐日エストニア共和国大使館の須原誠・特別補佐官は「結婚と離婚は人間同士できちんと話し合おう、不動産は大きい買い物なので現物を見なさいということだ」と説明する。

コロナ禍で真価を発揮

今、エストニアもコロナ禍にあり、政府は対応に追われる。しかし、第1回で紹介した独自開発の基幹技術「X-Road」により、官民の情報連携がスムーズに行われており、電子カルテや電子処方箋が医師・看護師の負担を軽減する。

また、政府は収入が3割以上減少した国民に限り、給付金を支給した。日本の一律10万円に比べると、資格要件の確認など複雑なデータ処理が必要になるが、申請開始からわずか2週間で給付が完了している。今回の危機においても電子政府がその真価を発揮したのだ。

日本ではコロナ禍が教育に大きな影響を及ぼした。学校では突然のオンライン授業への移行で混乱が生じ、教師・生徒・親は不安を募らせる。これに対し、エストニアでは大したトラブルが起こっていないという。一体、なぜだろうか。

実は、エストニアは電子政府化を進める上で教育を最重要分野に位置づけ、1996年に始めたタイガーリープ(虎の飛躍)プロジェクトによって全学校でインターネットへのアクセスを可能にしていた。コロナ禍前から、エストニアでは全科目の教科書がデジタル書籍化されており、生徒は宿題もオンラインで提出していた。

生徒の出欠や宿題の状況、期末成績、テスト結果、時間割などはすべてオンラインで確認可能。各学校には教育デジタル化を支援する技術者が配置され、教師・生徒のITスキルを引き上げる。

以前から教師と生徒・親はオンラインで密なコミュニケーションを図っていたから、コロナ禍に伴うオンライン授業移行も円滑に実現できたのだ。

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