電子政府が高める市民生活の利便性

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第2回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)

b88dd849447c1b8a8e26c3e97fea11018acc1025.jpgエストニア・タリン中央市場(写真提供:写真AC)

プライバシー保護の工夫について

その一方で、電子政府においては常にプライバシーの問題が懸念される。この点でもエストニアはさまざまな工夫を凝らしている。

X-Roadによって幾つもの官民データベースが接続されているが、個人情報が企業側に筒抜けというわけではない。「必要な時に、必要な分」しか確認できない仕組みなのだ。例えば銀行が利用者の本人確認を行う際、「このID番号の人は実在するのか」とデータベースに問い合わせても、返される回答は「はい」か「いいえ」のどちらかだけだ。

また、政府職員が国民の個人情報にアクセスした場合、だれが閲覧したかというログ(履歴)が必ず残される。

万一、閲覧資格のない職員が個人情報にアクセスすると、アラートが発信される。一方、日本でも行政機関がマイナンバー制度に関わる情報の照会・提供を行う場合、国民はその記録を閲覧できる。しかし、担当職員の氏名までは開示されない。

先述した駐日エストニア共和国大使館の須原誠・特別補佐官は、日本の電子政府への取り組みについて次のように指摘する。

「電子政府化が進むと、今まで一部の人しか知り得なかった内部情報が拡散するため、『ゼロ官僚主義』になる。一方、官僚主義は情報の小出しで成り立っているから、電子政府化によってそれが崩れる。行政は透明になり、行政サービスがリアルタイムで実現する。となると、(日本では権威や既得権が脅かされる)官僚サイドからの反発は相当大きいのではないか」―。

今年9月のデジタル庁発足に満足するだけならば、菅政権が掲げた行政デジタルトランスフォーメーション(DX)は画餅に帰すだろう。電子政府はあくまで手段に過ぎず、目的は国民の利便性向上と幸福度増大にほかならない。

そのためには、不祥事や非効率が続々と発覚している政官による統治機構にメスを入れない限り、日本は「デジタル敗戦」からの復興を成し遂げられないように思う。

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