デジタル庁の長を務める首相がデジタル担当大臣を任命。その下に各部局の事務を監督するデジタル監(事務次官級)を置く。従来の政府CIO(内閣情報通信政策監)に替わるポストである。政府CIOは各省庁に助言できたが、是正勧告などの権限がなく、霞が関の縦割りを崩せなかった。これに対し、デジタル庁は各省庁のプロジェクトを監督する権限を持ち、問題があれば勧告もできる。CTO(最高技術責任者)やCDO(最高データ責任者)といった幹部ポストについては、官民問わず適材適所の人材配置を目指すという。
連載最終回ではデジタル庁に期待される「人間中心設計」と利用者目線での官民ワンストップ実現について考える。
マイナンバー制度の企画立案を一元化
デジタル庁は国の情報システムの基本方針を策定。また、他省庁分も含めて行政デジタル化予算を一括計上し、統括・管理する。「なぜデジタル政府は失敗し続けるのか」(日経コンピュータ)によると、政府のITシステム関連経費(年間)はおおよそ7000億~8000億円、全国の自治体は4000億~5000億円。合わせて最大1兆3000億円に達するという。
巨費を投じながら、コロナ禍で「デジタル敗戦」を喫した反省を踏まえ、重要な行政システムについてはデジタル庁自ら整備・運用を担う。また、地方自治体の負担軽減に向けてシステム標準化・共通化を目指し、その企画立案や総合調整に当たる。
電子政府のインフラとなるべきマイナンバーカードの交付率は28.2%(2021年3月末)にとどまり、政府は頭を痛めている。マイナンバー制度の普及促進・利便性向上を目指し、菅政権は制度全般の企画・立案をデジタル庁に一元化する。
デジタル庁発足時の陣容は500人規模。うち約100人を民間から採用し、政府部門のIT人材不足を補う。既に第1弾として35人が採用され、内閣官房IT総合戦略室で先行勤務中。非常勤で民間企業との兼務も可能だ。
また、人事院は2022年度の国家公務員採用試験から、中央省庁の幹部候補となる総合職に「デジタル」区分を設ける。デジタル庁はじめ各省庁でIT関連政策の企画・立案に当たってもらうという。
マイナンバーカードが保険証・免許証にも
デジタル庁が指令塔となり、日本もエストニアや韓国のような本格的な電子政府の時代を迎えるのだろうか。政府発表のロードマップや各種報道に基づき、国民の生活がどう変わるのか予測してみたい。
デジタル庁発足を待たず、コロナ禍によって教育分野はリモート授業への移行を余儀なくされた。これを受け、文部科学省は児童・生徒に1人1台タブレット端末やパソコンなど配備をする「GIGAスクール構想」を推進するが、破損した端末の修理代をだれが負担するのかといった問題も浮上している。
また、厚生労働省はマイナンバーカードを健康保険証として利用可能な「オンライン資格確認システム」の本格稼働を打ち出した。ところがマイナンバーの誤入力などが多発し、予定していた3月下旬から「遅くとも10月までに」へ先送りした。
政府は「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を掲げ、数年以内に次のような施策を実現する方針を示している。例えば、①マイナポータルで薬剤・医療費情報を確認②マイナンバーに紐づけた公金受取口座の登録③医師の書く処方箋を電子化④転出・転入手続きのワンストップ化⑤ほぼ全国民にマイナンバーカードを交付⑥車検証の電子化⑦マイナンバーカードを生徒の「学習者ID」に紐づけて成績表などを電子化、デジタル教科書を本格導入⑧運転免許証をマイナンバーカードと一体化⑨医師・看護師などの国家資格をマイナンバーカードに紐づけ―などである。
上記のほとんどが他のデジタル先進国では導入済みだから、技術的には日本でも実現可能性が高い。
だが「デジタル敗戦」の歴史を振り返ると、電子政府化の停滞には縦割り行政に象徴される日本特有の事情や要因があり、決して楽観できない。政府部門が意識改革を断行しない限り、行政DXは画餅に帰すのではないかと危惧する。
既に指摘したように、電子政府に不可欠なインフラが国民ID(識別番号)制度、日本ではマイナンバー制度である。この利便性を向上させない限り、巨費を投じる電子政府に対して国民から理解・協力を得ることは難しい。
マイナンバーカード申請者に5000円分のポイントを付与するという「アメ」を配っても、交付率が3割にとどまる制度は本質的に欠陥があるか、よほど魅力がないかのどちらかだろう。