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デジタル庁が描く未来図と課題とは

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第4回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)


「仏作って魂入れず」を繰り返すな

第2回で紹介した韓国などにならい、まずは各種行政手続きが電子政府ポータルサイトにおいて一括で済むようにする必要がある。引っ越しの際のウンザリする手続きがワンストップで完了するなら、国民は政府に称賛を惜しまないだろう。

従来の日本では、各省庁や各自治体がワンストップなど眼中に入れず、競い合うように縦割りでシステムを作ってきた。まるで温泉旅館の建て増しのように、システムの本館、新館、別館を続々と構築。それぞれがつながらず、非常口の場所も分からない。

システム開発では供給側の論理が優先され、利用者目線を欠いていたのだ。これは政府部門に限らず、日本の大企業にも指摘できるのではないか。

そういう意味では、政府システムの一元管理・予算一括計上の権限を与えられるデジタル庁の責任は極めて重い。同庁がシステムの縦割りにメスを入れられなければ、行政DXは頓挫してしまい、日本は新たな「敗戦」を喫するだろう。

また、マイナンバー制度の利便性向上を検討していく上では、第3回で紹介したエストニアの官民連携を是非参考にしたい。マイナンバーを銀行や携帯電話会社などの民間サービスと紐づけるのである。そうすれば国民に10万円の特別給付金を支給する場合でも、昨年のような混乱を起こさなくて済む。

無論、個人情報保護には最大限の配慮が必要であり、データ漏洩の防止などサイバーセキュリティにもデジタル庁が先頭に立ってほしい。ただし、マイナンバーと銀行口座の紐づけには、プライバシー保護の観点から反対論も根強い。これに対して政府は、「紐づけによって課税所得の捕捉率に対する不公平感を解消する」とアピールしたらどうだろうか。

源泉徴収制度で税金が月給から天引きされる、会社員など給与所得者の所得捕捉率は約9割に達するとされる。これに対し、自営業者は約6割、農林水産事業者は約4割にとどまり、クロヨン(9:6:4)と呼ばれる異常な事態が長年放置されてきた。

クロヨンはトーゴーサン(10:5:3)とも言われ、さらに政治家の約1割を加えてトーゴーサンピン(10:5:3:1)とも指摘されるが...。これを電子政府が是正できれば、会社員層は拍手喝采を送るに違いない。

なぜ日本は電子政府化で後れをとり、コロナ禍という国家の危機にデジタルで立ち向かえなかったのか。恐らく、デジタルだからこそ人間を深く理解する必要があるのに、人間不在でシステム開発を進めてきたからではないか。巨費を通じて立派なシステムを築き上げても、「仏作って魂入れず」を繰り返してきたのだ。

米国はそれに気づき、近年は政府・民間のシステム開発において「人間中心設計(Human-centered Design)」を大原則にする。人間がシステムに合わせるのではなく、人間に合わせてシステムを設計する思想である。デジタル庁発足を契機に、日本が人間中心の電子政府実現に向けて舵を切るよう期待したい。

中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)
〔なかのてつや〕
リコー経済社会研究所研究主幹 日本危機管理学会理事長。1962年東京都生まれ、1985年慶應義塾大学経済学部卒。時事通信社経済部、政治部記者、ワシントン特派員、大阪証券取引所主任調査役などを経て現職。
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