安価に転じた再生可能エネルギー
ここまで外交の側面から各国の脱炭素の流れを見てきたが、今回の地殻変動の本質は、再生可能エネルギーが経済性を持ち、資本主義経済に乗ったことにある。
産業革命以後、世界の経済はエネルギーの創出を前提に回ってきた。日常生活で電気を使わない日はなく、目下、日本社会の課題とされるデジタル・トランスフォーメーションも、当然ながら電気があることを前提にしている。振り返れば近現代の歴史は、発電のためにいかにして化石燃料を確保するか、石油をめぐって外交が行われ、戦争さえ行われた歴史ともいえる。
化石燃料を産出できる国であればいいが、日本のようにほとんど持たない国もある。そこで世界は他のエネルギー源を模索する。注目されたのは原子力だった。原子力は未来のエネルギーとして期待されたが、世界を破壊するほどの力に、結局は平和的利用・核不拡散という名の下、先進国が厳重に管理し、国際的に広く普及することはなかった。また、チェルノブイリ、福島と大きな原発事故が生じたことも、世界の原子力発電普及には向かい風となった。
そして二〇〇〇年代から台頭してきたのが、再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電などである。その技術は一九八〇年代からあったが、まだ費用対効果の点から使える手段ではなかった。しかし、技術革新によりコストが低下し、世界で再生可能エネルギーの導入量が増えていった。そして二〇一三年、ついに再生可能エネルギーの導入量が非再生可能エネルギーのそれを逆転する。
なぜ、導入量の逆転が起きたのか。原子力が先のようにアクセスしづらい手段となると、火力発電が現実的な選択となる。しかし発展途上国にとって火力発電は巨額投資が必要でハードルが高い。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電は、火力ほどの巨額投資は不要だ。また、化石燃料の調達もいらず、自前でエネルギーを供給できるようになる。これまで利用価値のなかった砂漠でも、太陽光パネル、または風力発電機を設置するだけでエネルギーが調達できるのだ。導入量の増加は需要の創出となり、規模の経済が働いてさらにコストが安くなる。その好循環が二〇一〇年代に急速に進展した。特に太陽光発電の発電原価は、二〇一〇年と一九年を比較すると五分の一以下、一kWhあたり七セントを下回るようになった(図1)。各国の動きを見ても、パリ協定が採択された後の一六~一七年が転換点だったと分析され、主要国において一七年上期時点で太陽光・陸上風力が一kWhあたり一〇セントを切るようになり、ガス火力、石炭火力とコスト競争力を持ったことがわかる(図2)。費用対効果を高めた再生可能エネルギーは、まさにゲームチェンジャーとなったのである。
今、太陽光発電は一kWhあたり二セント以下での世界的な普及が目指され、一九年八月にはポルトガルのプロジェクトで一kWhあたり一・四七セントが達成された。技術革新は日々進み、将来性と費用対効果の両面から、再生可能エネルギーが第一の選択肢となる時代になっているのだ。二一年五月に国際エネルギー機関が発表したロードマップにおいても、もはや化石燃料セクターは儲からないという衝撃的な報告がなされるようにまでなっている。