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温室効果ガス削減「46%」目標の衝撃 なぜ日本は乗り遅れたのか?

前田雄大(EnergyShift統括編集長)

京都議定書の経験が仇となった日本

 日本はこの世界の流れに完全に乗り遅れた。その原因の一つに、日本ではコストの逆転が起きなかったことが挙げられる。図2でもわかるように、日本の太陽光、陸上風力発電は、火力発電の約二~三倍のコストがかかっていた。世界では資本主義経済を前提に、よりコストの安い再生可能エネルギーにシフトしていったが、日本では事情が違うため、当然、再生可能エネルギーに目が向かない。政府も通称「FIT制度」、再生可能エネルギーの優遇策、補助を付けたが、民間セクターが高い値段設定に胡坐をかいてしまい、本当に競争力のある民間が参入して市場が形成されなかった。

 その影響は太陽光パネルを生産する日本メーカーの競争力低下も招く。二〇〇〇年代中盤まで日本の太陽光パネル生産シェアは世界のトップだったが、中国に一気に抜き去られ、今世界のトップ一〇のうち九社が、中国に拠点を構える企業である。そして日本の現在のシェアは一%台まで凋落した。風力においては、まったく世界と張り合うことはできず、日本メーカーはすべて撤退することになってしまった。これからの二大エネルギーと目される太陽光と風力において、日本は世界と競争できない状況にある。

 日本が世界の機運に乗り遅れた背景には、京都議定書を先導した経験がかえって日本の判断を誤らせたことがあると思われる。京都議定書はアメリカの協力を取り付けられず、第二期には日本さえも削減目標を設定せず、気候変動対策の交渉の難しさを体感した。特に一九九七年に気候変動枠組条約が採択されてから二〇〇五年の発効まで七年以上の歳月を要したことで、日本がパリ協定もすぐには発効しないだろうと高をくくったとしても不思議ではない。パリ協定は、実際には採択から一年を待たずに発効したが、残念なことに、情勢を読み違えた日本は発効時に批准が間に合わず、発効時の締約国になれないという失態を演じることになる。

 ただし、ここで日本にとっては助け舟のように、トランプ政権が二〇一七年に発足する。トランプ政権はオバマ政権のレガシーの否定を行ったが、その最たるものが気候変動分野だった。パリ協定からの離脱表明を含め、徹底的に反・気候変動対策を方針として掲げたトランプ政権は、化石燃料、特に石炭セクターを優遇した。脱炭素化が進んでいない日本としては好都合な方針でもあった。

 しかし今年、バイデン大統領が就任し、当然のごとく揺り戻しがやってくる。同盟国アメリカの方針転換に加え、環境対策では下に見ていた中国が日本よりも早くカーボンニュートラルを宣言したことで、ようやく日本も脱炭素が不可逆な流れであるということを実感したのである。

 そこで菅首相は、二〇二〇年十月の臨時国会で二〇五〇年までのカーボンニュートラルを宣言。二〇年十二月には「グリーン成長戦略」を策定し、今年四月の気候サミットで温室効果ガス排出の四六%削減と矢継ぎ早に脱炭素政策を発表したのである。

 

(『中央公論』2021年8月号)

中央公論 2021年8月号
オンライン書店
前田雄大(EnergyShift統括編集長)
〔まえだゆうだい〕
1984年生まれ。2007年東京大学経済学部卒業後、外務省入省。開発協力、原子力、大臣官房業務などを経て、17年から気候変動を担当。パリ協定に関連する各種国家戦略の調整を行う。20年、再生可能エネルギーを推進する株式会社afterFITに入社し、脱炭素メディア「EnergyShift」の発行人兼統括編集長としてサイト、アプリを運営。
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