(『中央公論』2022年1月号より抜粋)
選挙結果にサプライズなし
砂原 先の衆議院選挙の印象は、「まあこんな感じだろうなあ」というものです。特に地殻変動が起きた感じもなく、事前の政党支持率がそのままに出た結果だったなと。メディアの方などから立憲民主党(以下、立民)が負けた理由を問われますが、もともと支持率が低かったわけです。
善教 私の手元にあるデータを見ると、小選挙区と比例で違う政党に入れている有権者がこれまで以上に多い点がポイントだと思います。自民党も立民も比例の得票数は小選挙区より少ないのですが、その差分、こぼれた票は基本的に日本維新の会(以下、維新)に流れていると見ています。確かに維新は関西圏外の小選挙区で勝てていませんが、支持する人は関西圏外でも増えた。これが維新躍進の理由です。
維新は2012年の衆院選でも躍進しましたが、このときは橋下徹さんと石原慎太郎さんが共同代表で、イデオロギーの異なる支持層を取り込みつつ、勢いに乗って全国的に支持を伸ばしました。それに対して今回は、勢いではなく得票のメカニズムそのものが変化しているように感じます。このあたりはもう少し注視する必要があると思っています。
砂原 有権者がメインで考えているのは、小選挙区より比例区に見えます。比例代表には政党支持率が反映されます。有権者は、「この政党がいい」と比例で投票しても、同じ党から出た小選挙区の候補者に必ずしも入れていない。つまり立民は、小選挙区で競ってもコアの支持者以外の浮動票を比例で動員できなかった。
だとすれば、立民の最大の課題は支持者の幅をいかに広げるかだと思います。ところが立民は、惜敗したということで小選挙区の勝敗や選挙協力のあり方ばかり議論しているように見えます。他の政党との足し算という戦術にこだわって、政党支持を広げる戦略を打ち出せず、尻尾に全体が振り回されています。
善教 立民の課題はわかりやすいのですが、維新はもう少し複雑です。もともと日本は、政党支持と投票選択との結びつきが弱い。例えば自民の支持率は40%前後で安定的に推移していますが、個人の中では支持と不支持が頻繁に変わるなど安定しない。その傾向は1970年代から今日まで大きく変わりません。
ましてや維新のような新興政党だと、支持率は自民よりずっと不安定です。10年にわたって大阪に根づいてきた維新ですら、選挙の前後になると支持率は乱高下する。ふだんは無党派と言っている人が、選挙の直前に維新支持になり、数ヵ月経つとまた無党派に戻るようなサイクルもあります。維新は普段の支持率だけでは読みにくい政党です。