砂原庸介✕善教将大 「日本維新の会」は国政でも存在感を示せるか?
維新躍進の肝は「同日選挙」
砂原 維新については、大阪と国政を分けて考える必要がありますね。
まず大阪から見ると、政党として継続的な支持を得ています。その原動力になっているのが、2011年、15年、19年と3度行われた大阪府知事と大阪市長の同日選挙です。誰をリーダーに選ぶか、府と市のあり方を繰り返し問うたことで大阪における維新の存在感が際立った。それが先の衆院選にも影響したとすれば、大阪の人は国政選挙より地方選挙を重視しているとも取れます。
善教 同日選挙が最大の肝であることは間違いありません。私はよく「アジェンダ・セッティング」という言い方をしますが、選挙で選択基準となる争点を示し、それを有権者に認識させることが重要です。大阪の場合、知事と市長を一緒に選択させることで、府市間調整を問うというアジェンダを設定できています。この時点で、調整機能に乏しい大阪の自民党は不利になります。
砂原 19年の同日選挙では大阪府議選と市議選も行われました。府議選は小選挙区制に近いので如実に白黒が出て、維新は議席を伸ばしています。そしてもう一つ、3度の同日選挙でリーダーを育てられたことが大きい。15年時には知名度の低かった吉村洋文さんを大阪市長にできたのは、橋下徹市長の後継で、なおかつ松井一郎府知事とワンセットで売り込めたからです。
リーダー養成は政党の重要な機能の一つですが、もともと自民は得意ではありません。誰かが揉まれて勝手に出てくるだろうと考える。その点、吉村さんは育てられたリーダーだと思います。日本ではすごく珍しいタイプじゃないでしょうか。
善教 最大のターニングポイントは、19年の同日選。松井府知事と吉村市長がクロス選を仕掛けたときでしょう。おそらく維新は、吉村さんをリーダーに育て上げるために、吉村さんを目立たせ、成長させる戦略を取ったのだと思います。ある種の賭けに出たわけです。
その後、吉村さんはコロナ対応で再び注目されました。批判もされましたが、大阪府は東京などと違ってそもそもリソースがない。批判はあれども、限られたリソースの中で何ができるのかを府民は見ていたのではないでしょうか。いずれにせよ結果的に、リーダーを育てるという政党の機能が発揮されたわけです。
砂原 松井市長は23年の任期満了で引退すると表明しています。維新としては、次の市長選挙で新しい候補者を立て、吉村さんの人気で当選させたいでしょうね。次代のリーダーを育成できるので。ただ問題は、国政のリーダーをいかに作っていくか。仮に今回当選した若手で有望な国会議員がいたとして、その人物を松井さんの後継として大阪市長に持ってくるか、それとも国政のリーダーとして育てていくかはけっこう悩ましい問題だと思います。
国政を見ると、過去の衆院選で、大阪以外の地域での維新の戦略は、みんなの党や希望の党などと連合を組むというものでした。しかし先の衆院選では、維新の存在感が際立ち、維新が主導するかたちで都市部で候補者を立てていった。そして、都市部の比較的若い人を中心に、無党派も含めて維新に流れたわけです。これは大きな違いです。だとすれば、旗印になるような国政のリーダーを育てることも急務ではないかと。吉村さんのようなカードを国政でも用意できるかが大きな課題だと思います。
善教 政党に対する有権者の意識を測る指標の一つに「感情温度」があります。好嫌度を0度から100度までの数字で回答してもらうわけですが、私がいくつかの調査結果を確認したかぎり、2014年以降の維新の平均値はだいたい30~35度。けっして高くない。ところが先の選挙の後、急に50度を超えて、もっとも温度が高い政党になりました。有権者の維新を見る目は変わった。
しかし、維新自体が国政をどこまで真剣に考えているのかはまだわかりません。次の大阪市長選や府知事選をどう戦うかなどがメインで、国政は二の次なのかもしれません。
砂原 反維新の観点では維新を右翼政党と見がちですが、支持層からは、経済優先・自己責任の「ネオリベ」ではあれ、ナショナリズム・国家論を掲げる右の政党とは受け止められていないと思います。そこに維新支持者と反維新の人の見方のズレを感じますし、国政で扱われるときには反維新的な見方がフレームアップされている気がします。
構成:島田栄昭
1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部卒業。06年同大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。著書に『地方政府の民主主義』『大阪』(サントリー学芸賞)、『分裂と統合の日本政治』(大佛次郎論壇賞)など。
◆善教将大〔ぜんきょうまさひろ〕
1982年広島県生まれ。2006年立命館大学政策科学部卒業。11年同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(政策科学)。著書に『日本における政治への信頼と不信』『維新支持の分析』(サントリー学芸賞)、『大阪の選択』、編著に『市民社会論』など。