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尾身 茂 我々専門家は、言うべきことは言う「オネストブローカー」

尾身 茂(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長) 聞き手:牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)

関心が具体的な岸田首相

牧原 岸田首相になり、安倍政権や菅政権の時と比べて、専門家と官邸の関係に変化はありましたか。岸田政権からは、首相の記者会見に同席されなくなりましたが......。

尾身 私たち専門家は、その時々の状況で言うべきことを言ってきただけです。

 安倍・菅首相の時には記者会見に同席するように言われて出席していました。私自身はファクトベースの専門的な回答を説明する役割として呼ばれたのだと理解していました。一方、岸田政権では同席を求められることはありません。岸田首相は会見では自らの言葉で話したいと思ったのだと推測します。いろいろな人の意見を聞いて咀嚼(そしゃく)したうえで、それをしっかりと記者会見で述べておられるのだと思います。

 我々も国民も今まで多くのことを学んできましたが、政権も同じだと思います。官僚や専門家から意見は聞くけれども、リーダーが最終決断をする。岸田首相には、そういう強い思いがあるのだと思います。

 岸田首相の記者会見の前に何度か呼ばれて説明をしたことはあります。最近ではワクチンの効果について。科学的・専門的なことまでかなり勉強されていて、「ここだけはもう一度確認したい」ということを聞かれました。岸田首相の関心は具体的で、「何でもいいから意見を言ってほしい」ではなく、「ここが知りたい」という質問が多いですね。

 コロナ対策を担当する経済再生担当大臣も西村康稔(やすとし)氏から山際大志郎氏に代わりました。西村大臣とは毎日のように会っていましたが、山際大臣とはそれほど頻繁に会っていません。これはいいとか悪いとかではなく、大臣のマネジメントの仕方の違いだと思います。我々は現在も官僚とは頻繁に会っていて、山際大臣には官僚から情報が上がっています。

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