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土屋大洋×鈴木一人 サイバーや宇宙利用は手段 戦いを決する量・質・外交

土屋大洋(慶應義塾大学大学院教授)×鈴木一人(東京大学大学院教授)

「これはプロの戦争ではない」

土屋 クリミア半島は小さな地域でもあったので、ジャミング(妨害)用の電波を流していた。しかし、調べてみるとサイバー攻撃でネットワークを止めたのではなく、通信事業者の局舎を銃を持って占領して、言うことを聞かせていた。


鈴木 電力を遮断するのも、サイバー攻撃でなく、物理的に変電所を押さえて支配した。今回も、ウクライナ南部に位置するザポリージャ原発を占領したのに電気を止めていません。


土屋 ロシアは2015年、16年にウクライナ西部の何十万世帯もの電力供給を止めました。今回はもっと大きな規模かと思われたのに、全く止めていません。

 いまだに電力と通信が生き残っているのも不思議で仕方ありません。ウクライナ全土のインターネット網を見ると、4ヵ所に「インターネットエクスチェンジ(IX)」と言われる大きなトラフィック(一定時間内にネット上で転送される情報量)の交換ができるポイントがある。マリウポリはすでに機能していませんが、キーウ、オデーサ、ハルキウはまだ残っていて、つながっている。ハルキウの回線はロシアに向かっているので、そのうち落ちるかもしれませんが、ウクライナは残りの2ヵ所を維持し、ルーマニアやポーランドなどに通信をつないでいる。だから、ゼレンスキー大統領の映像を全世界に流せる。ロシアはそれを一つずつ潰さなければいけないのに、全くできていません。

 また、ウクライナの主要な携帯電話会社の一つはロシア系なので、その会社のウクライナの携帯電話網を止めようと思えば止められるのにしていない。


鈴木 今回の戦争の初期によく言われたのは、「これはプロの戦争ではない」ということでした。ロシアは軍事研究も盛んだし、組織的にハイブリッド戦も勉強している。理論を語る参謀も多くいる。「これからはハイブリッド戦だ」と言ってきたのに、その素振りを全く見せていない。

 ロシア空軍はウクライナ空軍の何十倍もの規模なのに、航空優勢を取る姿勢も見せずに、いきなり戦車が出てきて、榴弾砲(りゅうだんほう)(遮蔽物を越えて砲撃できる曲射砲)と高射砲(航空機を撃墜するための火砲)で20世紀のような戦争を戦っている。何をやっているのかさっぱりわかりません。


土屋 戦車に乗っている兵士は若く、演習だと騙されて連れて来られたという話もあります。


鈴木 ブチャ(キーウ郊外の都市)の虐殺をした一部の兵士はロシア軍ですらなく、いわゆる民間軍事会社の兵士だと言われています。正規軍を使わないのは兵士が足りないのか、民間軍を使った方がベターだと考えたのかはわかりませんが、そこだけはハイブリッド戦らしい戦いでした。


土屋 しかし、結果的には評判を落とす効果しかなかった。ともかくロシアの攻撃はスマートではない。


鈴木 クリミア侵攻の時は、ウクライナの内部にロシアを支持する人たちがたくさんいて、ロシア軍が入るのを手引きしていた。ところが、今回はそうした動きが見られない。ゼロではないでしょうが、組織的にロシアを迎え入れるような動きはなかった。そういう人たちを活用する雰囲気がなく、いきなり実弾を撃ってきたような気がします。


土屋 私には、ウクライナ全土を掌握するだけの準備ができていなかったように見えますね。


鈴木 ウクライナは、広大な国土に4400万人が住んでいる。また、分権的な国だから、中央を押さえればすべてが済むわけではない。逆に、ドンバス地方(ウクライナ東部)のボスが一族郎党を引き連れて独立宣言をし、ロシアとくっついて人民共和国を打ち立てることもできてしまう。地方をすべて押さえるのは容易ではありません。


土屋 真相は戦争が終わって何年か経たないとわかりませんが、ロシアの攻撃にはいくつも疑問があります。


鈴木 ハイブリッド戦は理論的には可能なはずなので、実行できない理由が何かあるのかもしれません。

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