民間軍事会社の誕生
そもそも、国の軍に営利目的で参加する「傭兵」は昔から存在する。それを個人ではなく会社形式にしたのがPMCだ。近代的なPMCは主に第二次世界大戦後に米軍を補佐するかたちで登場した。こうしたPMCの元祖としては、米国の「ダインコープ・インターナショナル」がある。もともとは1946年に退役飛行士によって米軍の航空作戦支援を請け負う「カリフォルニア・イースタン・エアウェイズ」として発足した会社で、朝鮮戦争やベトナム戦争などに"参戦"した。87年に現在の社名になり、その後もイラクやアフガニスタンで活動した。
もっとも、「戦争でカネを稼ぐ」という目的を大々的に掲げたPMCは、アンゴラやコンゴなどのアフリカの鉱物会社に雇われるかたちで発展した。こうした利益追求型PMCの元祖は、89年創業の南アフリカの「エグゼクティブ・アウトカムズ(EO)」であろう。EOは南アフリカ軍特殊部隊の元将校が創設したPMCだが、当時、同国では大規模な軍縮が進められており、その退役兵士たちで編制された。歩兵だけでなく、戦車や戦闘機も持つ本格的な"軍隊"で、アンゴラ、シエラレオネ、コンゴ、イラク、パプアニューギニアなどで活動し、いくつかの国では内戦の一方の陣営を完全勝利させるほど影響力を持ったが、98年に南ア政府によって解散させられた。
EOの成功によって、PMCは各地で続々と誕生した。アフリカで展開する鉱物会社の警備などはその後も需要があったが、それより大きなマーケットが2000年代に爆発的に成長した。01年の9・11テロを受けての米軍のアフガニスタン戦争と、03年のイラク戦争である。
これらの対テロ戦で、米軍はいっきに任務が拡大した。米政府から巨額の予算が振り分けられたものの、人員が不足していた。そうかといって急に新兵を増やしても、すぐに現場で対応できるわけではない。必要なのは即応力のある熟練の兵士だった。
また、正規の将兵を増員すると、将来的に対テロ戦が縮小した場合に、逆に人員削減という問題を抱えることになる。そうした特殊事情が、軍事のアウトソーシングという需要を生んだ。米国防総省はとくに部隊の訓練指導と、紛争地帯での警護任務に、元特殊部隊員などの熟練のメンバーを揃えた欧米系のPMCを使った。
その中でも最大手のひとつが、米国の「ブラックウォーター」社だ。同社は元米海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」将校によって1997年に作られたPMCで、当初は米軍と米警察の訓練を請け負っていたが、その後、海外の米軍施設や米国政府の在外公館の警備任務などに業務を拡大した。とくにイラク戦争後には輸送時の警備にも参加。その過程で地元の反米武装勢力と激しい交戦を日常的に行った。
ただし、その行動はきわめて荒っぽいもので、イラク住民への弾圧に近い態度をしばしばとった。2007年にはブラックウォーターによるイラク民間人殺傷が発覚し、問題化する。その後、同社は社名を変更。10年にはイラク政府や米国政府との契約も打ち切られ、経営陣も代わった。