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小峰ひずみ 平成世代が描く左翼像――エンパワーメントによる新しい連帯のかたち

小峰ひずみ(批評家・エッセイスト)

無能感が壁になる

 では、現代の左翼は人民の何に訴えかければよいのか? 理性ではなく「欲望」である。左翼は、「他人に自分の未来を決めつけられたくない」「いまとは異なるあり方で生きていきたい」という人民の欲望に働きかけるのだ。哲学者のアントニオ・ネグリとマイケル・ハートは「万国の労働者よ、団結せよ!」(マルクス=エンゲルス)という左翼によって使い古されたアジテーションにふれつつ、この文言は「国民的アイデンティティを基盤にして団結するのではなく、国境や境界を顧みることなく、さまざまの共通の欲求や欲望を介して直接的に団結せよ」という意味だと解説した(1)。言語と理性による合意よりも、欲望の直接的な結びつきを強調する。さまざまな社会運動や暴動、反乱といった出来事は、何らかの欲望を表現していると彼らは考えたのだ。

 もし日本で社会運動が活発ではなく、デモや集会に参加することが忌避されるのだとすれば、それは欲望を表現することを諦めてしまっているか、あるいは、欲望そのものを持つことができないでいるからだろう。日本だけではない。イギリスの批評家マーク・フィッシャーは、イギリスの学生が抗議行動を起こさない理由を「無関心でも冷笑主義でもなく、再帰的無能感の問題」、要するに「事態がよくないとわかっているが、それ以上に、この事態に対してなす術がないということを了解してしまっている」ことに求めている(2)。欲望を持ったとしても、実現する術がないならば、欲望を表現すること自体が虚しい。

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