企業・組織・個人のベストミックスを
コロナ禍の3年間は、感染症対策と働き方改革をいっしょくたにして進めたせいで、さまざまな弊害が生じていましたが、今後は、会社全体のあり方や働き方を、ていねいにリデザインしていく時期だと思います。
例えばリモートワークありきではなく、仕事内容によって出勤に揺り戻す会社や部署があってもいい。「労働時間より成果」というのも、時間や成果の中身をよく検討し、労働者が消耗しないあり方を探っていくべきです。「古い働き方はダメ」と決めつけると、新しい働き方に馴染まない業種の人や、新しい働き方が合わなくて苦しんでいる人の口を塞いでしまうことになりかねません。
また「働き方改革」のように、一見、労働者のためになりそうな掛け声に対して、すべて従う必要もありません。国は何のために「働き方改革」を推進しようとしているのかをよく見きわめたほうがいい。
例えば22年の政府の「骨太の方針」には、育児・介護と仕事を両立させるための週休3日制、リカレント教育(学び直し)、副業・兼業の推進などが盛り込まれています。文字だけを見ると、休みが増え、副業もできて良いように取れますが、内容をよく読むと国の「労働力を減らしたくない」という論理が透けて見えてきます。
また、さまざまな「休み」を「義務化」する動きには注意して向き合わなくてはなりません。一見すると、休みやすい国になっているかのように感じますが、本来「労働者の権利」であるものを「義務化」することは、国が求めている労働者像の型にはめられてしまう危険と表裏一体だからです。
長く続いた働き方を変える場合には、ゆっくりと、企業や組織、そこで働く個人のベストミックスを探りながら進めていくべきです。当事者である労働者は、その際、発生した問題点をどんどん口に出して共有すべきです。「新しい働き方」に違和感があっても、批判や炎上を恐れて意見を言いづらい現状があるとしたら、それはとても怖いことだと思います。
コロナ禍も落ち着き始め、リモートワークに代表される急激な働き方の変化は一段落しつつあります。今後は、労働者が自らの問題を、躊躇せず、明るく発言しあえる社会になってほしいと思います。
(『中央公論』2023年2月号より)
構成:秋山圭子
1974年生まれ。北海道出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルートなどを経て2015年に千葉商科大学国際教養学部専任講師、20年より現職。専門は労働社会学。『なぜ、残業はなくならないのか』『「就活」と日本社会』など著書多数。