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河野太郎 お役所を良くするのも政治の仕事――人材・やりがい・多様性

河野太郎(デジタル大臣、内閣府特命担当大臣(デジタル改革、 消費者及び食品安全)、国家公務員制度担当)
撮影:米田育広
「ブラック霞が関」と呼ばれるような厳しい状況が伝わる今、河野太郎・国家公務員制度担当大臣は、どのような点を課題だとみなし、どう取り組もうとしているのか。その問題意識について問うた。
(『中央公論』2023年5月号より抜粋)

山積する課題

──河野大臣はどういった経緯でキャリア官僚や官僚組織が抱える課題の存在に気づかれたのでしょうか。


 僕はこれまで国家公務員制度担当大臣を3回拝命しています。ギネスブックに載れるんじゃないかな(笑)。それで、2015年に初めて担当したとき、何人かの女性の官僚が「話をしたい」と言うので会う機会がありました。そこで彼女たちから「子育てなどを理由に、女性官僚を優遇するな」と言われたんです。

 よくよく話を聞いてみたら要するに、女性を優遇するとどうしてもその分のしわ寄せが男性官僚にいって、彼らが長く働いたり休日出勤をしたりすることになる。結果として、その人の奥さんが仕事を辞めてパートタイマーにならざるをえないような状況がある、と。自分たちを優遇するために同僚の奥さんが割を食うのはおかしいという話だったんですね。

 言っていることは非常によくわかって、「子育てがあるから」という理由で、そこだけに向けて対策していたらそうなりますよね。「国家公務員制度担当大臣としてやるべきは女性の優遇ではなく、そもそもおかしいそのシステム自体を変えてほしい」と言われて、「わかりました」と。多分それが、ストレートに言われて気づいたきっかけですね。


──そこから官僚の実態について調べられて、課題が山積していることがあらためて見えてきたわけですね。


 そうですね。それから、知り合いの官僚があっさりと辞めていくことも結構経験しました。一緒に仕事をしていて「この分野を切り盛りしている人だな」と思っていた方から「辞めます」と連絡をもらって驚くケースが、つい最近もありました。それで「本当に困った事態だな」と思ったところもあります。


──1996年の衆院議員初当選以来、長く国会議員としてキャリアを積んでこられました。ご自身が若手時代に接した官僚たちと現在の官僚たちを比べて、時代の変化は感じますか?


 その比較はなかなか難しいところです。27年前は新人議員でしたから、話をする役所の人も若い方が大半でした。こちらが年を食えば相手も年を食うわけで、閣僚に話をしに来る官僚となると、局長クラスなど年次が上の人が多くなります。相手の役職も年齢も変わってきているので、比べてどうかと言われれば、「よくわからん」というのが正直なところではあります。

 ただ、これは印象論ですが、若いうちに選挙に出たり民間に転職したり、わりと早くに辞める人がいるように感じます。


──人事院の調査でも、採用から10年未満で退職するキャリア官僚が7年間で4割以上増えたという結果が出ています(2022年5月25日「総合職試験採用職員の退職状況に関する調査の結果について」)。原因はどこにあるとお考えですか?


 一つには、とにかく長時間労働でしょう。たとえば、「明日、国会で委員会が行われます」と前日に決まったら、その瞬間、「今日は全員残業です」となってしまう。夜に答弁を作って翌朝には大臣にレク(説明)をしなければいけないとなると、徹夜したり、夜中にタクシーで帰宅して3時間寝てまた来たりするような働き方にならざるをえません。それこそ昨年12月に旧統一教会の被害者救済法案を審議していた頃は、「1週間ほとんど寝ていません」みたいな人がたくさんいました。

 しかもスケジュールに予見性がないんですね。委員会が突然あったり、議員の質問通告が遅れたりして、忙しさが不規則になっている。そうすると、子育て中の人なら保育園の送り迎えに行けなかったり、親の介護の予定が組めなくなったりということになってしまいます。

 それから、やりがいと給料の問題があります。給料が安いとわかっていて霞が関に来るのはつまり、国のため、国民のために働こうという思いがあるからですよね。だけど、やっている仕事でそれを実感できない。政府や党の会議に向けて直前まで資料を差し替えて繰り返しコピーをとって、でも会議中に誰もろくに資料を見ずに終わりました、となれば、「これは本当に自分がやりたかったことか?」となる。そして、それがこの先何年も続くと思ったら、自分の能力を伸ばせるところへ転職したいと思うのは理解できます。

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