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冨山和彦 コンサルはなぜ必要とされ、なにが足りないのか

冨山和彦(経営共創基盤〔IGPI〕グループ会長)
冨山和彦氏
 東大生をはじめとしたエリート学生の就職先として人気を集めるコンサル。果たしてその人気はこれからも続くのか。日本を代表する経営コンサルタントである冨山和彦氏に聞いた。
(『中央公論』2023年10月号より抜粋)
  1. コンサルを目指す学生たち
  2. 個からシステムへの転換

コンサルを目指す学生たち

──東大生をはじめとしたいわゆるエリート大学生の就職先として、大企業や官公庁の人気が落ち、入れ替わるように外資系などのコンサルティング会社が人気を集める状況が続いています。冨山さんは東大在学中に司法試験に合格していながら、外資系コンサルであるボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社し、その後は自らコンサル会社を経営されましたが、コンサルが今の学生から人気を集める理由はどこにあるとお考えですか?


 大きな理由は「待ち時間」の短さだと思います。大企業や官僚機構はまだまだ終身雇用と年功序列を前提とした組織ですから、新人は言わば下働きのような仕事を20年以上もやらされることになります。それでも経済が堅調だった時代は、20年我慢すればそれなりのポストや、天下り先が確約されていました。でもバブル崩壊以降、もはやそんな経済状況ではなくなりました。

 ことに霞が関の場合は、天下りへの規制は厳しくなっていますし、政治主導で霞が関の力は弱まる一方で、その時の首相や大臣が誰かによって官僚個人のキャリアも左右されてしまう。待ち時間の長さが割に合わなくなっています。

 ところがコンサル会社や一部の投資銀行などでは、入社早々に最前線に引っ張り出されて、それなりの責任を負いながら働かないとなりません。終身雇用ではないので失敗すればクビになるかもしれない反面、20代から中身のある仕事を任されるので、成長スピードが速いんです。また、コンサルの根幹はファクトとロジックで物事を考えることにあるので、どんな職種に転職しても持っているスキルの通用性が高く、「潰しがきく」仕事なんですね。

 トップエリートの人たちの流動性は高くなっていて、今では転職しながらキャリアアップしていくのが当たり前です。ひとまず新卒で入る場所として、コンサル会社は〝おいしい〟職場に映っているのではないでしょうか。


──冨山さんもそのような動機でBCGを志望されたのですか?


 私も似たようなものですが、当時はかなりの少数派でした。1985年4月の入社ですが、新卒は私だけでしたから。「東大卒で、司法試験にも合格しているのに、そんな業界に行くなんて気は確かか」なんて周囲から言われていました。

 私の半年前にもう一人、今年2月に日本マイクロソフトの代表取締役社長に就任した津坂美樹さんが、ハーバード大学を修了して入社していますが、同期入社と言えるのは彼女だけじゃないかな。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社でも採用は年に5、6人だったと記憶していますから、当時の常識からすれば変わり者、良く言えばチャレンジャーしか来ない業界でした。

 企業も役所も「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代で、自分たちに自信を持っているから、コンサルから経営の助言を受けようなんて考えない。要するにニーズの小さな業界だったんですね。

 それからの約40年で世の常識がひっくり返って、コンサルが人気就職先になっている。私たちが学生だった頃であれば大蔵省(現財務省)や通商産業省(現経済産業省)、あるいは日本興業銀行に就職していたような人たちが、マッキンゼーやBCGに入社しているのだと思います。

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