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東 浩紀 「訂正」のダイナミズムを失った日本

東 浩紀(批評家・哲学者)

起源に遡ることのダイナミズム

──日本の組織は閉鎖的なムラだと否定的なニュアンスでいわれることがあります。新刊『訂正可能性の哲学』では共同体について論じておられましたが、ムラから抜け出すヒントはありますか。


 前提として、僕は共同体から抜け出す必要性は「ない」と考えています。人は常にどこかの共同体に属している。そもそも、共同体は常に壊れていて、完全には閉じないものです。共同体が閉じていて、そこから抜け出せば自由になると思ってしまうほうが勘違いです。

 あともう一つ。よく誤解されるのですが、哲学は処方箋を出すものではありません。僕の新著も「みなさん訂正してください」と呼びかけるものではない。むしろ、訂正は常にされている、それを忘れないでくれというのが僕の主張です。共同体は常に壊れているし、新しい可能性に開かれている。人々がそれに気づいていないだけです。だから「日本型組織を抜け出そう」なんて肩肘張らなくていいのです。

 訂正することは、老いること、年を取って変わることに近い。人は変わりたくない、変わっていないと思っているけど、実際はどんどん変わっている。だから、その変わっているということにもっと気づいたほうがいい。そして変わらないことにこだわらないほうがいい。それが僕の考えです。僕たちは日常的に訂正しているんです。大事なのはそれに気づくことです。

 ただ一つ、こういうことはいえます。人間が訂正するためには起源に戻らないといけません。本の中でも挙げた例ですが、例えばソクラテスが実は「女性」だと発見されたとする。そういう発見が可能なのは起源の意識があるからです。本当はそんな起源の存在は嘘かもしれないけれど、とりあえずは存在すると僕たちは思い込んでいる。そういう起源への遡行のような一種のフィクションを通してしか、僕たちは訂正することができないんです。

(続きは『中央公論』2023年11月号で)

中央公論 2023年11月号
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東 浩紀(批評家・哲学者)
〔あずまひろき〕
1971年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。株式会社ゲンロン創業者。『存在論的、郵便的』(サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』『クォンタム・ファミリーズ』(三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』『ゲンロン0観光客の哲学』(毎日出版文化賞)、『ゆるく考える』など著書多数。
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