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増田寛也×宇野重規「人口減を止められなかった10年」

増田寛也(日本郵政社長)×宇野重規(東京大学社会科学研究所所長)

人口減少が引き起こす最大の危機

宇野 10年前の論文で革新的だったのは、出産年齢にある女性人口に着目し、この層の減少に歯止めがかからない限り、地域の人口減少も止まらないと明らかにしたことでした。そこにフォーカスした意義は明らかですが、同時にむしろ見えにくくなった部分もあります。人口の取り合いで、自治体の施策が自然増対策よりも社会増対策に向かってしまった逆効果もあったのではないかと思います。

 今回のレポートで特筆すべきは、令和5年推計で仮定推計として挙げられていた「封鎖人口」を使い、自然減の分析をされたことですね。


増田 まさにそこがこのレポートの肝と考えています。封鎖人口は、転入出がなく出生と死亡だけを変動要因と仮定し、人口変化を推計したものです。移動が一定程度続く条件での仮定推計と比較することで、若年女性の移動要因を地域ごとに把握することを目指しました。


宇野 自然減が加速している地域、社会減が深刻な地域、両面で減少が進む地域。それから、東京周辺に見られるような他地域から人口を吸い上げてしまう自治体、つまり自然減を社会増で補う「ブラックホール型自治体」といった、地域ごとの特徴や違いがクリアに示されたのは大きいと思います。消滅可能性都市数が減ったことからもわかる通り、地域単位では施策がうまく機能しているところもあるわけですが、日本全体ではやはり状況は悪化していると言うべきですね。


増田 はい。それが今後の日本社会に二つの対立を生じさせるのではないかと、私たちは懸念しています。

 一つは世代間対立、現役世代と高齢世代の対立です。これまでは出生率の上昇で、相対的に多数の現役世代が少数の高齢者を支えるピラミッド型の年齢人口構成が成立していましたが、現在は少数の現役世代が多数の高齢世代を支える逆ピラミッド型になりつつあります。日本は世界に冠たる社会保障制度を構築してきましたが、逆ピラミッド型では論理的に成立せず、どこかで崩壊してしまいます。だから高齢者であっても負担能力のある人には医療費や介護費を自己負担してもらうというように、少しずつ切り替わりつつあるわけです。利害をうまく調整しながら制度を変えていかないと激しい世代間対立が起こりますし、そのためにも人口の減少スピードを緩和させる必要があるでしょう。

 もう一つは地域間対立です。現時点で社会増はほぼ東京周辺だけで起こっていて、名古屋や大阪の圏域でも転出超過になっています。東京への機能集中は是正されていませんし、それによって労働力も集まり、企業の納税額も東京が他を圧倒する構図となっています。これは東京とその他の都市の財政格差を拡大し、地域間対立をより激化させてしまうのではないかと懸念しています。


宇野 人口減少は三つのタイムスパンで考えるべき問題だと考えています。

 短期的にはすでに多くの地方自治体が、文字通り存続の危機に瀕しています。市役所や町村役場の職員も足りない状況で、必要な行政サービスを提供することができなくなりつつあります。広がりつつある傷口の応急処置がまずは急務です。

 中期的には、増田先生がおっしゃったように、社会保障の維持が困難になっていくでしょう。人口減少の加速を受けて社会保障財政が繰り返し見直されてきましたが、実際の減少スピードが予測を上回ってしまう悪循環に陥っています。

 しかし最大の危機は、長期的なスパンで起こっていると思います。つまり、再び人口増加に転じることはないにせよ、どこかのタイミングで人口減少が社会的に許容できるペースに落ち着くのかどうか、その見通しがまったく立っていないのです。制度や財政を変えるにも、どこかで人口が安定しないと持続可能なモデルを構築できません。

 かつては人口1億人を死守することが目標として掲げられていましたが、すでに過去のものとなりました。人口戦略会議が「2100年に8000万人の規模で安定させて成長力のある社会を構築する」ことを目指すべきだと提言したことは、非常に重要な問題提起だったと思います。しかし、社人研では2100年の人口は6300万人、外国人を除くと6000万人を割り込むと予測しており、現実の進行はこの予測すらも上回りつつあります。

 今後、日本に定住する外国人が増えるとしても、その増加分で人口減少を補うことは不可能です。あくまでも減少スピードを緩やかにするものでしかありません。


構成:柳瀬 徹 撮影:言美 歩


(続きは『中央公論』2024年6号で)

中央公論 2024年6月号
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増田寛也(日本郵政社長)×宇野重規(東京大学社会科学研究所所長)
◆増田寛也〔ますだひろや〕
1951年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。77年建設省(現・国土交通省)入省。岩手県知事、総務大臣などを歴任し、2020年より現職。編著書に『地方消滅』(新書大賞2015)、『東京消滅』、共著に『地方消滅 創生戦略篇』など。

◆宇野重規〔うのしげき〕
1967年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は政治思想史、政治哲学。『民主主義とは何か』(石橋湛山賞)、『日本の保守とリベラル』など著書多数。
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