TPP離脱が転換点に
――変化はどのようにして起きたのでしょうか。
オバマ政権は伝統的な貿易政策を取った最後の政権と位置づけることができますが、実はその時から変化は起きていました。TPP(環太平洋経済連携協定)について議会の承認を得られなかったことが、アメリカの貿易政策の根本的な転換点となりました。
こうした変化をもたらした最大の原因は、政治です。アメリカの政治そのものが変化したのです。
2008年の金融危機以降、社会に広がった不平等感や不安感を背景に、政治の分極化が進みました。民主党の中心はさらに左へと移動し、進歩的な左派が主流となります。一方、トランプ氏は右派の気分を捉え、共和党を極右の方向へと引っ張りました。このようにして、10年代半ばから後半には、左右に極化した勢力がそれぞれの党の中心となったのです。
戦後70〜75年間にわたり、共和、民主両党の中道層はいずれも、貿易システムと国際貿易におけるアメリカの役割を支持してきましたが、その基盤は砂地のように崩れました。両党とも、極化した世界観を持つ勢力が支配するようになったからです。
TPPが承認されなかった原因は、一方の極端な政党が伝統的な貿易ルールや規範に反対したからではなく、中間層を見いだすことが非常に困難になったことにあります。オバマ大統領は貿易協定を再構築すべく多数派工作を試みましたが、こうした伝統的な政治手法は両極化した政治システムには通用しませんでした。