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不確実な時代こそ日本再生のチャンスだ――アジア開発銀行(ADB)総裁が語る世界経済、アジア、そして日本

神田眞人(アジア開発銀行(ADB)総裁)

将来を見据えた責任ある政策を

――アジアが盛り上がるなか、日本はどうすべきでしょうか。すでにGDPで中国の4分の1以下となり、ドイツに追い抜かれ......。


 そのとおりで、今年はインドにも抜かれていく。各国の政財界等のリーダーと話していると、日本は内向きかつ近視眼的で、活力に欠けると思われています。本当は日本にはすごい潜在力があるだけに、とても残念です。日本にはこの変容期を画期的なチャンスと捉えて羽ばたいてほしいと心から願っています。

 大切なのは、現実に目を塞ぎ、次世代を見捨てて、持続不可能な「シャブ漬け」生活を続けるのではなく、厳しい国際競争を直視し、日本人の将来の幸福のために、ひいては、日本の人類社会への名誉ある貢献のために、真摯かつ健全に努力すること。モラルハザードと既得権構造を排して、本当に頑張っている将来性のあるところに雇用と資本が移動できるような普通の市場経済を回復する。内部留保をため込むのではなく、リスクを伴った投資により技術革新を推進し、財政は、人口動態も考えて、子どもたちが困らないような責任をもった規律を取り戻す。みな、世界では当たり前のことです。

 そして最大にして最難関の課題は、やはり人口問題です。若い人たちが結婚して子どもを産みたくなる国、あるいは外国人が住みたくなる魅力的な国にしなければならないのに、事態は悪化しているように見えます。

 小さな途上国でも、競争力を上げるべく歯を食いしばって債務問題と向き合い、既得権益にまみれた政治からの脱却を試みています。李強首相たちとお話ししていると、中国も地方財政や不動産市場といった困難な課題と正面から格闘しているところがあると感じますし、欧州でも、たとえばイタリアのメローニ首相たちと意見交換すると、よりよい世界秩序の模索のためのリスクを取った努力は本物だと思いました。

 一方、日本はどうでしょう。本気で明日のために改革しようとしているのか。今、諸国民が、世界市場が見ています。

 民間企業も同様です。企業間交渉には事前に徹底的に調査・分析した上で臨み、即断するスピード感が必要です。持ち帰ってのんびり検討していては、他社に取られてしまう。もっとリスクを取ってフロンティアに出ていかなくてはならないのです。

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