- 採用達成率51%の衝撃
- 幹部自衛官も辞めていく
採用達成率51%の衝撃
自衛隊の人手不足が進んでいる。定員は約24万7000人だが、実員は2024年度末時点で約22万3000人と、約2万3000人も不足している。2023年度末と比べても4000人以上減少し、充足率は90.4%となった。さらに6月10日に開かれた「自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議」においては、充足率がさらに低下し、89.1%となったことが示された。自衛隊の充足率が9割を切るのは、1999年度以来25年ぶりのことだ。
2024年度末時点でとりわけ目立つのが、最も下の階級である「士」の充足率の低さだ。幹部では92.6%、曹では98.2%の充足率だが、士では実に67.8%となっている。
この数字が意味するところは、若い隊員を採用できなくなっているということだ。2023年度の自衛官の採用実績は、1万9598人の採用計画数に対し9959人と、その達成率は過去最低となる51%。とりわけ任期制の「自衛官候補生」の採用達成率は1万628人の募集に対し3221人と、30%にとどまった。こちらもやはり過去最低の数字だ(なお、2024年度の採用率は65%と回復しているが、募集人数は前年度の半分程度となっている)。
人材を採りたくても採れない状況下で、自衛官からは新入隊員の質の低さを嘆く声も聞こえてくる。
話を聞く限り、日常的に東シナ海での哨戒任務や弾道ミサイル防衛に当たる海上自衛隊での人手不足感が特に強い。任務が過剰なうえ、そもそも「長期にわたり帰ってこられない」特性から、船乗りの人気が低いためだ。入隊試験の点数も、3自衛隊の中で最も海自が低いとの話も聞こえてくるが、海上自衛官は「選り好んではいられない」と漏らす。
防衛省は、人手不足の大きな要因を「静かなる有事」とも呼ばれる少子高齢化の進行や有効求人倍率の上昇にあるとする。この2点が大きな要因であることに筆者も異論はない。
昨今大学進学率が上がっているが、それも自衛隊にとっては喜ばしいことではない。防衛省は2018年、採用の間口を広げるために自衛官の募集対象年齢の上限を26歳から32歳まで引き上げた。一方で2021年のデータでは、任期制の「自衛官候補生」・非任期制の「一般曹候補生」ともに平均採用年齢は約20歳で、高校卒業後すぐの18歳で入隊する割合が半数に上る。大学を卒業してから自衛官候補生となる割合は約12%にすぎず、主な募集ターゲットは「高卒者」となっていることがわかる。
一方で、2024年度の大学進学率は過去最高の59.1%を記録している。短大や専門学校などを含む高等教育機関全体では、こちらも過去最高の87.3%となっている。つまり本来自衛官候補生や一般曹候補生の主たる担い手だった「高校を卒業してすぐに就職する」人材の減少が、人口減少以上のスピードで進んでいるのだ。
ただ、人手不足を引き起こす要因はほかにもある。まずは民間企業や、警察などほかの公安職との熾烈な競争だ。民間では大手企業を中心に初任給を引き上げる傾向にあるとともに、リモートワークやフレックスといった柔軟な働き方やキャリア自律の推進など、魅力的な施策を展開している。自衛隊も積極的に「ワークライフバランスの推進」「多彩なキャリア」を押し出してはいるものの、その柔軟性はどうしても民間企業よりはるかに劣る。
また、自衛隊そのものへの好感度は高い一方で、「元自衛官が民間に移る」となったときには、その個人の能力が低く見積もられがちな傾向にある。自衛隊に在籍した経験が社会でプラスと捉えられないのであれば、自衛隊に進むことはリスクとみなされるだろう。
自衛隊には実は多様な職種があるのだが、一般には銃を持って匍匐(ほふく)前進するような"3K(きつい、汚い、危険)"のイメージが強い。さらにパワハラ・セクハラも一向になくならない。そのような、若者が忌避しがちな条件が揃ったうえ、ウクライナ侵攻や台湾有事への懸念など、日本を取り巻く安全保障環境も悪化している。
加えて、価値観のギャップも大きいと考えられる。どれだけ働きやすい職場であると訴求したところで、自衛隊はどこまでいっても軍事組織だ。濃密な人間関係のもと、プライバシーや外出の自由は制限され、ときには理不尽とも思える上官の命令に従うことが求められ、厳しい叱責を受ける。心身ともに追い詰められる環境下で、最終的には「事に臨んでは、命を顧みない」ことを要求される。
個を尊重し、一人ひとりに寄り添う姿勢が重視される現代に育った若者が、自衛隊の環境にギャップを覚えるのはむしろ当然とも言えるのではないかと思う。