(『中央公論』2023年2月号より抜粋)
聞き手は古沢由紀子・読売新聞東京本社編集委員
技術進化で感じた専門大学の限界
──昨年10月に発表された東京工業大学と東京医科歯科大学の統合は、大学界だけでなく広く日本社会にインパクトを与えました。歴史・伝統・実績のある両大学がなぜ今、統合という道を選んだのでしょうか。
田中 統合話を持ちかけたのは私で、1大学1法人方式を提案されたのは益先生です。私自身も、学長就任前から単独では限界があるとの認識は強く持っていました。
大学統合の話は今に始まったことではありません。遡れば、1999年の五大学連合構想(東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学、東京藝術大学)に行きつきます。この構想は2001年に始まった本学と東工大・東京外国語大・一橋大による相互教育プログラム「四大学連合」に繋がり、広い視野を持つ人材を育てようと研究・人材育成両面から議論が交わされてきました。
東京医科歯科大学は医学部と歯学部に特化した専門大学です。しかし近年の医療現場における技術進化は目覚ましく、医学だけでは対応が限られてしまう。私の専門の内視鏡分野でも、かつては胃の粘膜に色素をかけて変化を見ていましたが、今は光学的処理による細かい変化の検出、AIでの自動拾い上げまで試みられている状況です。もっと他分野、特に工学系の大学と連携して広がりを持つべきだと感じていました。
名古屋大学と岐阜大学が1法人2大学方式で運営法人を統合したと聞いたときに、「ああ、こういう手もあるんだ」と思って、益先生にチラッとお話ししたのですが、「研究ではいろいろと連携していますよね」と素っ気なかった(笑)。その代わりに、複数の大学で共同の法人を設立できる「大学等連携推進法人」という制度を使えば共同の研究所を設置できるから、やってみませんかと持ちかけました。2020年だったと思います。
益 コロナ禍初期で、「大学運営、どうしている?」と四大学連合でよく相談していましたからね。それまで年2回だった学長懇談が、オンラインになったことで月1回になって。
田中 そうですね、四大学連合の学長同士で話す機会が頻繁にあったこともきっかけになったと思います。