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「富岳」の正体③ 富岳の「使いやすさ」は米中スパコンを圧倒――性能ランキング「TOP500」創始者に訊く  

ジャック・ドンガラ×聞き手:小林雅一

富岳は米中のスパコンより実用的

─お世辞抜きで、富岳に対するあなたの評価を教えてください。

 これは凄いマシンです。お世辞ではありません。

 現在、スパコンの多くはインテル社製など市販プロセッサーを採用しています。これに対し富岳では、ARMベースのカスタム・プロセッサー、つまり最初からスパコン用に独自開発した「A64FX」というCPUを搭載しています。A64FXには極めて興味深い特徴があります。それはベクトル型の命令を実行できることです。先程申し上げたようにベクトル型のスパコンは一九八〇~九〇年代の主流でしたが、富岳はこの方式をある程度まで復活させたと見ることができるでしょう。

 もちろん、基本的には富岳も「マルチ・コア、マルチ・プロセッサー方式」の現代的なスパコンですが、そこにかつてのベクトル方式を組み合わせることで、より高速かつ高効率なHPC(高性能計算)を実現したのです。

 また多数のCPUをつなぐ「インターコネクト」のスピードも申し分ありません。これらが相俟って「TOP500」をはじめ四部門のタイトルを独占することにつながったのでしょう。

─現在、米国で最速のスパコン「Summit」を評価してください。

 これはとても強力なマシンです。(同じくマルチコア、マルチ・プロセッサー方式で)IBM社製のプロセッサーに加え、加速部としてNVIDIA社製のGPUを多数搭載しています。これは長所でもあり、短所でもあります。

 なぜなら、GPUはマシンの計算能力を大幅に増強してくれる一方で、逆に、上手く使えないとマシン全体の性能が低下してしまうからです。そのようなプログラムを書くことは、必ずしも容易ではありません。つまり非常にパワフルなマシンですが、十分に使いこなすためには、それなりの工夫が必要ということです。

─現在、中国で最速のスパコン「Sunway TaihuLight(神威・太湖之光)」を評価してください。

 これは中国独自のプロセッサーを採用した非常にユニークなマシンです。このプロセッサーは世界の多くのスパコンが採用しているものとは全く異なります。きわめて興味深い設計になっていて、その性能を十分に引き出すためには特殊なプログラミングが要求されます。逆に、それができなければ、このスパコンはそれほど良い仕事をしてくれません。

─これら日米中のトップ・マシンを比較評価してください。

 やはり富岳がナンバー1と言えるでしょう。Linpackで計測した実測性能(実効性能)がピーク性能(理論性能)の実に八一%に達するからです。一方、Summitは七四%、TaihuLightも同じく七四%ですから、富岳の方が明らかに上ですね。

 ピーク性能とは要するに商品カタログに記された公式スペックのようなものですから、実測性能はそれよりも大分落ちてしまいます。逆に言うと、実測性能がピーク性能に近いほど「看板に偽りなし」ということを意味するわけです。富岳はまさにそれに該当します。

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