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ヒット作は狙って出せるのか!? ~売れるきっかけ作りの努力と、『女人入眼』『幸村を討て』にみる歴史小説の可能性~

あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた

歴史小説は義務教育で楽しめる最もとっつきやすい分野

さて、ここでようやく今回取り上げた2作の話に戻りますが、『女人入眼』は「大姫入内」という、「鎌倉幕府最大の失政」と呼ばれる事件を描いたもの、『幸村を討て』はタイトル通り真田幸村とその兄信之が大坂の陣で活躍する話ですが、どちらも歴史小説と言われる分野。なにしろ日本人全員が義務教育で習うのですから、全員に歴史小説を楽しむ素地、歴史ファンになる潜在能力が備わっていると言えます。毎日毎日とんでもない量のエンタメが生み出され、「ネタバレサイトを見てから楽しむ」というやり方も珍しくなくなるほど「娯楽に対して失敗したくない」という傾向がみられる中で、ほぼ全員が大体のあらすじを知っているというのは、ある程度「外さなそうだ」と見通しがつくことの安心感につながり、時代にもそぐうのではないかと思います。

書店の歴史モノを支えるNHK大河ドラマ

また、歴史を扱うエンタメとして外せないのがNHK大河ドラマ。現在放送中の「鎌倉殿の13人」は私も毎週楽しみに見ていますが、まさに時代は『女人入眼』と丸被り。刊行時に「夏に大河ドラマで『女人入眼』のシーンをやるから売れるのでは」といったことを話していました。大河ドラマ効果というのはこれもまたものすごく、小社からは新書『北条義時』を「鎌倉殿」の放送に合わせて刊行して売れていますし、監督の三谷幸喜さんが「脚本の参考にした」と発言された『吾妻鏡』をマンガ化した『マンガ日本の古典』の当該刊もとっても売れています。さらにこちらご覧ください。

(有隣堂 アトレ川崎店)

各社ここに合わせてたくさん展開しています。ただ、昨年渋沢栄一を主人公に据えた「青天を衝け」の時は、書店の売れ的には『論語と算盤』の一強だったようですが...。
ともあれ、「鎌倉殿」で描かれていた大姫と『女人入眼』の大姫。ストーリーは全く同じはずなのに、描かれ方が全然違うという楽しみや、結末を知っているからこそ、読んでいる最中に「え、これ最後ああなるのにこんなんなっちゃって大丈夫!?」というワクワクが楽しめる。あながちネタバレ文化も悪くないのでは、とさえ思えます。
『幸村を討て』も個人的には数年前の大河ドラマ「真田丸」の大ファンの私としては大変楽しく、まさに新釈「真田幸村」といった面白さ。幸村を題材にした作品は数多ありますが、どれもしっかりと売れるのは、こういったそれぞれの解釈がときに相反するものに見えてもどっちも楽しめるのが歴史小説の魅力だからです。

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