足りなかった「検討」とは
さて、ここで足りなかった「検討」とはなにか?
もちろん生成AI全般に対する権利的な「検討」があるだろう。
たとえば生成AI先進国である英国のStability.ai、米国のOpenAIらは、アーティストたちによる訴訟を多数抱えているとされる。そこでの主な論点は、生成AIの学習に著作物を使うことはフェアユース(公正利用)の範囲に含まれるかどうか、ということだ。
一方、この日本は「著作権や肖像権はどう守られるべきか」という線引きが進んでいる側の国でもある。
諸外国では訴訟になっていることが、日本でなっていないのは、2018年に成立した改正著作権法30条の4で「AIが文章や画像を学習する際、営利・非営利を問わず著作物を使用できると定める」と明言されているからだ。
*ただし、この話題については専門家の間でも解釈に幅があるのも事実で、ぜひ内閣知財委員会で議論した、以下柿沼太一弁護士の意見(及び文化庁の見解に対する感想)も一読いただきたい。「生成AI、画像の特徴が似ていれば「著作権侵害」にあたる? 文化庁の最新見解を読み解く」(弁護士ドットコム )
概ね「学習に著作権が適用されない」ことと「生成された画像や文章が他社の著作権を侵害しないかどうか」が別とされる場合が多く、たとえば生成AIによって、既に存在する著名な人物やキャラクターに酷似したものを生成した場合、従来通りの肖像権や著作権侵害の罪に問われることになる。
反面、子供が自宅で、あくまで自分の楽しみのためにマンガなどの著作物のキャラクターを描くのは著作権法に抵触しない(ただし日本のディズニーは、1987年に小学生が卒業記念にプールへ描いたミッキーマウスの絵を消させたことがあるが)。
つまり、描く行為そのものは問題なくとも、描いた後に他社・他者の著作権を侵害しているものを販売したりすれば、罪に問われるのは当然で、営利活動に関与していなくても、権利者の心象次第では訴えられる可能性がある...ということになるだろうか。
ここでAIグラビアアイドルの話にもどす。
生成した画像が、実在するグラビアアイドルに酷似していた場合、「そのアイドルの権利を侵害しているのでは」と指摘されることは十分にあるだろう。
しかし、画像だけを見て「この画像のもとになったのは、アイドルAで確定」と断定するのはなかなか難しい。
一方、星の数ほどアイドルがいる世界で、「完全に誰にも似ていないAIアイドル」を作り出すこともまた難しい。顔である以上、目があって、口があって、鼻があって・・・といった基本を簡単には崩せないからだ。
とにかく、そうした課題を抱えたまま、本来は人間に与えられたかもしれなかった仕事をAIが奪ったように見えたのだから、批判が生まれて当然だったのではなかろうか。