明治から戦前までの新聞や雑誌記事を史料として、『問題の女 本荘幽蘭伝』『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』など話題作を発表してきた平山亜佐子さんの、次なるテーマは「男装」。主に新聞で報じられた事件の主人公である男装者を紹介し、自分らしく生きた先人たちに光を当てる。
明治から昭和初期にかけて新聞や雑誌に掲載された男装に関する記事を取り上げ、それぞれの事情や背景を想像する「断髪とパンツ」。
今回は変装としての男装について見ていこう。
記事は「散髪〈ざんぎり〉お粂」、1904(明治37)年5月15日付読売新聞(旧かな旧漢字は新かな新漢字に直し、総ルビを間引き、句読点や「」を適宜付けた)。
浅草区金竜山北河原町十七番地戸沢お里の妹お粂(十八年)は姫御前の身のあられもない鍵の手の曲〈まが〉った根性。柿色の仕着せに臭い飯を喰いし女なるが、昨年八月中市ヶ谷監獄を飛出して以来、散髪となり銘仙の袷に同じ羽織、麦藁帽子を阿弥陀に被って男の姿に扮〈やつ〉し、一昨夜予〈かね〉て怪しき仲なる浅草今戸町五番地の髪結〈かみゆい〉保坂長吉(二十七年)と吉原へ繰り込み、鼻唄を迂鳴〈うな〉りながら素見〈ぞめき〉歩きし末、京町二丁目千稲弁楼へ二人にて押上りたるが、同楼の者が女という事を発見し、女は客に取れぬ規則なりとて拒絶せしにお粂は大に立腹し、長吉共々乱暴を働き、皿鉢を叩き壊すやら、妓夫の横面〈よこっつら〉を擲り飛すやら、乱痴気騒ぎを始めたれば、到頭〈とうとう〉浅草署の厄介になりしとは、女の癖に困ったシロ物。