「僕は無智だから反省なぞしない」と語った小林秀雄の戦後の始まりとは。
敗戦・占領の混乱の中で、小林は何を思考し、いかに動き始めたのか。
編集者としての活動や幅広い交友にも光を当て、批評の神様の戦後の出発点を探る。
敗戦・占領の混乱の中で、小林は何を思考し、いかに動き始めたのか。
編集者としての活動や幅広い交友にも光を当て、批評の神様の戦後の出発点を探る。
目録から浮かぶ、魅力的な文芸新聞「新夕刊」
斎藤理生作成の「目録」を一覧すると、「新夕刊」文芸欄のおおよその様子がわかる。第一に、小林に近い鎌倉文化人や作家が執筆者として登場している。第二に、俳句俳人が多い。これは間違いなく、俳人「永井東門居」でもある副社長の永井龍男の差配だろう。第三に、芸能関係者の出演、執筆が多い。これは朝日新聞の演芸記者だった秋山安三郎の人脈か。
第一では、林房雄、亀井勝一郎、河上徹太郎、吉田健一といった「新夕刊」のメンバーは当然として、他にも小林の友人や後輩が多い。川端康成、大佛次郎、神西清、草野心平、火野葦平、北原武夫、坂口安吾、中山義秀、高見順。仏文科関係では小林の恩師である辰野隆、同級生の今日出海、三好達治、後輩の中村光夫、渡辺一夫、京大仏文の河盛好蔵など。大家では里見弴、菊池寛(将棋と競馬)、正宗白鳥、武者小路実篤がいる。志賀直哉はさすがにいない。その他、江戸川乱歩、林芙美子、壺井栄、石川達三、岡本太郎などや、ロシア文学者の米川正夫、英文学者で小林の従弟・西村孝次がいる。変わった企画では、「文芸時評」に流行作家の丹羽文雄や、喜劇役者の古川緑波が起用された(ロッパの文芸時評は河出文庫『苦笑風呂』に所収)。新憲法施行の日には、佐藤春夫の「新憲法の讃歌」と吉野秀雄の「日本国新憲法」が載る(詩と短歌か)。「新人は語る」という企画では、三島由紀夫(「言ひがかり的抱負」)や柴田錬三郎(「ダンデイスム礼讃」)も登場する。読みたくなる企画がいっぱいで、「新夕刊」が文芸新聞であったことは、これらの目次からでも十分に感じられる。