混乱を助長した情報発信
田原 今度の震災は、始まりは天災だったけど、そのうちに人災になったと言う人がいます。例えば、原子炉への海水投入が遅れてダメージを拡大させた。原発からの避難も三キロから始まって、五キロ、一〇キロ、二〇キロ、三〇キロと、何かためらいながら広げているようで、避難住民を心身ともに疲弊させました。
何よりも批判を集めたのは、政府の情報発信の仕方です。枝野さん(官房長官)の発表は曖昧で、海外メディアなどはまったく理解できないと言っていました。
石破 災害が起こった翌日、谷垣(自民党)総裁が菅総理にお会いして、いくつかの要望を申し上げました。そのなかで強調したことの一つが情報発信についてです。特に原発に関しては、放射線や医学の専門家でない枝野官房長官がメッセージを発信し、記者の質問の受け答えをするのはやめるべきであると、強く要望しました。専門家に任せよと。
田原 専門家って、例えばどんな人?
石破 放射線に関する知識があって、なおかつ説明能力のある人が必ずいるはずなのです。技術者はえてして難しい数字などを持ち出して語りがちですが、そうではなくて庶民感覚を理解した、わかりやすい話ができるエキスパート。今、原発で何が起きているのか、何を心配すべきなのか、あるいはその必要はないのか。そういったことは、その人に説明を任せて、官房長官は現状分析を踏まえた政府の決定だけを述べればいいのです。
もう一つ、菅総理から始まって官房長官、東電、原子力安全・保安院、文部科学省、経済産業省、農林水産省などとバラバラに出てきて話すのはやめて、説明を一元化すべきだということも申し上げました。特に非常時においては「この人の言うことが、国の唯一の公式発表である」というふうにしないと、無用の混乱を招くだけ。情報の信用性も疑われてしまう。
田原 事実、混乱しました。枝野さんの話も、国民を安心させようとしているのか不安を煽っているのか、わけがわからない。
石破 「健康にただちに影響するものではない」と聞いたら、誰でも「じゃあ、いつかは影響するの?」と突っ込みたくなりますね。「可能性は排除されない」とか「必ずしも〜ではない」とか、あとで言質をとられないように、発言に常に「保険」をかけている。
例えば、福島産のホウレンソウから放射性物質が検出されたら、「何々ベクレル」と一般国民が誰も知らない用語を持ち出す前に、「毎日これだけの量を生で食べ続けたら、何人中何人に健康被害が生じる可能性があるという量です」とか、「放射性物質は洗えば落ちるし、茹でればさらに減ります」といった情報を、明確に伝えるべきだったのです。
田原 ただ、今回は枝野さんも相当迷っているんじゃないでしょうか。入手した情報をすみやかに出すべきなのか、国民の不安を増幅させないような手立てを優先させるべきなのか。
石破 もちろん、不安にさせないためといって、重要な事実を隠蔽したり改竄したりすることは論外ですが、事実であっても政府は「可能性が排除できない」というような言い方をしてはいけない。そんな言い方しかできないのだったら、発表すべきではありません。情報を伝えるとともに、そのことによって受け手がどう感じるか、何が起きるのかを発表前に考える必要があるのに、今の政府にはそれがまったく欠けているのです。
田原 枝野さんは、最初海外メディアを会見に入れませんでした。通訳もなし。外国の新聞などでは、日本中が津波に襲われたかのような、ものすごい報道のされ方もしている。
石破 その後も、各党・政府震災対策合同会議などの場でいろいろ申し入れましたが、なかなか改善は進まない。そこで大島副総裁と気仙沼出身の小野寺衆議院議員と私とで、仙谷官房副長官のところに"直談判"に行きました。仙谷さんの評価はいろいろありますが、他に政府・民主党を仕切れる人間が見当たらない。