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国宝からランドセルまで。救出・復旧から被災地の復興が始まる

内田俊秀(京都造形芸術大学名誉教授)

文化財の救出が被災者を勇気づける

 阪神・淡路大震災から始まったこうした活動は、その後も引き継がれていく。


 例えば、二〇〇四年の新潟県中越地震の際、山のふもとにある長岡市釜沢町では、村祭りに皆でお参りする神社の祠に保管されていた仏像が損傷した。この祠は町内の約二〇軒の家により守り伝えられていたが、住民はそれぞれ家の片づけなどに追われていた。秘仏である木製の千手観音坐像の破損が心配されたが、幸いにも市の文化財担当の職員の尽力によって安全な場所に移動させることができた。修理には一年を要したが、町内の元のお堂に戻され、恒例の五月の祭りに町のシンボルとして、参拝されている。


 このように、仏像が寺院ではなく、小さな神社の境内の一角にあるお堂に保管されているという例は全国で見られる。明治時代の神仏分離令によって、全国の神社から仏像が持ち出され、時には廃棄されたということはよく知られている。しかし、それまでの一〇〇〇年以上、神様と仏様は一緒の場所に置かれ、地域の人々に参拝されてきた。この名残が各地にまだ見られるのである。


 地域の文化財の復旧や伝統行事の復活が被災者の気力を呼び戻し、復興に向け動き出す力となることはよくある。また、これとはやや異なるが、地域の文化財が人々や集団のアイデンティティの再確認に必要不可欠なものであることもまた認められている。被災したコミュニティの復旧と文化遺産の救出や復旧とは密接な関係があることから、その大きな力を再認識し、災害時にこれらを救い出し修理し機能を回復させることの意味、そしてその重要性は強調してもしすぎることはあるまい。


 一方で、震災発生時には掘り出し物が出てくる好機として、古美術商などの業者が非常に早い時期に現地に入り、買い取り対象として持っていってしまうこともよく聞く話だ。東北大学のある教員は、救出作業における今後の課題として、いかに古美術商よりも早く現場に入れるかを挙げている。

(以下略)

構成:戸矢晃一

 

〔『中央公論』2021年5月号より抜粋〕

内田俊秀(京都造形芸術大学名誉教授)
〔うちだとしひで〕
1948年神奈川県生まれ。明治大学文学部卒業後、文化財保存修復研究国際センター、イタリア国立ローマ中央修復研究所などで学ぶ。帰国後、民間の文化財研究所などを経て、1997~2013年京都造形芸術大学芸術学部教授。現在、国立文化財機構文化財防災センター文化遺産の防災に関する有識者会議委員。18年文化財保存修復学会学会賞受賞。共著に『歴史文化を大災害から守る』など。
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