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たばこ税増税をきっかけに考える喫煙者と非喫煙者の摩擦。「感情論」と「勘定論」に分けることが重要 二宮清純

対立を煽るのではなくお互いが共存できる社会に
二宮清純(スポーツジャーナリスト)

ゼロサムの風潮が強い時代だからこそ

 SNSが典型だが、最近はなんでも対立を煽るような傾向が強くなっている。メディアにも責任があるのかもしれないが、ポジショントーク的な話が多くなってきているように思える。

 しかし、物事はどんなことでもゼロサムでは解決しない。お互いにうまく住み分けられる方法を見つけるほうが生産的ではないだろうか。

 社会の多くの物事に、完璧な解決方法はなかなか見つからない。だからベターな方向、つまり、これならお互いにのめるよね、というアイデアを出していくことのほうが重要だと考えている。

 ゼロサム、オール・オア・ナッシングの風潮が強くなっている時代だからこそ、何事に対しても、双方が共存できる方向性を目指すことが大切なのだと思う。

性急に答えを出す必要はない

 さまざまな議論を呼んだ東京2020オリンピック・パラリンピックが終わった。スポーツジャーナリストという仕事柄、私は、今回のオリンピックは成功だったと思うかどうか聞かれることが多い。しかし、その答えは5年、10年経ってみないとわからないと思っている。

 前回(1964〔昭和39〕年)の東京オリンピックでは、新幹線が開通し、首都高速ができ、地下鉄が整備された。しかし、翌年の1965(昭和40)年には不況になり、戦後初の赤字国債を発行することになった。この事実によって、オリンピックが不況を生んだという人もいれば、あのときのインフラのおかげで日本は成長できたという人もいる。答えは単純ではない。

 もともと、私は極論が嫌いで、極論を言う人とは距離を置くようにしている。物事は緑の眼鏡をかければ緑に見えるし、赤の眼鏡をかければ赤く見える。双方とも、自分の眼鏡を時には点検したほうがいい。SNSの普及により、近年は何事も性急に答えを求めすぎる傾向が強いようだが、今回のオリンピックについても5年、10年経ってみてわかってくることがあるはずだ。そのために大切なのは、振り返って検証できるように記録をしっかり残しておくことではないだろうか。

 たばこについてもこれは同じで、ゼロサムの話にしてはいけないと思う。人間は十人十色というように、それぞれ考え方も生き方も違うから、誰かの生き方に完全に合わせることはできない。そこを諦めたうえで、どうすればお互いの権利を守れるのか、それを調整するのが行政や政治の仕事だと思うのだ。

 いたずらに対立を煽るのではなく、互いがそこそこ折り合って生きていくことは、社会の一つの知恵だと思う。その知恵の有り様が、いま問われているのではないだろうか。

構成:戸矢晃一

中央公論 2021年11月号
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二宮清純(スポーツジャーナリスト)
〔にのみやせいじゅん〕
1960年愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーに。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。『スポーツ名勝負物語』『勝者の思考法』『ワールドカップを読む』『スポーツを「視る」技術』『プロ野球の一流たち』『歓喜と絶望のオリンピック名勝負物語』など著書多数。

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