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災害の多発化・激甚化で空き家は新たな事態を引き起こす存在に。家をつくることしか考えてこなかったツケ 野澤千絵

野澤千絵(明治大学教授)
「家を『つくる』ことばかりに目を向け、つくった住宅を『引き継ぐ』『たたむ』ことに目を向けてこなかった――」。近年の「空き家問題」を明治大学教授の野澤千絵氏はそのように分析する。増加する一方の空き家をめぐって、深刻化する現状に迫る。
(『中央公論』2021年12月号より抜粋)

 日本人は長年、自分の土地や家を持つこと、「一国一城の主」になることを夢見る国民性でした。にもかかわらず、今、「所有者不明土地問題」や「空き家問題」が深刻化するという不思議な状況を生み出しています。

 これら二つの問題が起きている根本的な要因は同じです。少し前までは、先祖代々の土地や家は引き継ぐことが当たり前のものでした。しかし、地方から都市への人口流出や核家族化の進展を背景に、田舎の土地や家は価値ある資産という見方が少なくなりました。また、不動産登記制度の不備もありますが、自身に相続権がまわってきていることすら知らないなど、時代の変化で、家族・親戚との繋がりが昔に比べて希薄になっていることも関係しています。

 ただ、山林・原野・農地等も含まれる所有者不明土地問題とは異なり、空き家問題は人々が暮らす居住地が中心です。そのため、日々の生活環境への影響が大きいだけでなく、空き家増加に伴う人口減少や地価の下落に伴う税収減に大きく影響します。

新たなフェーズへ

 こうした中で、筆者は、昨今の災害の多発化、激甚化で、空き家問題は「新たなフェーズに突入」したと感じています。著しく荒廃していなかった空き家でも、台風・豪雨・地震等で一気に荒廃し、地域住民の生命、身体または財産に危険が差し迫る状態になる事態が多発しています。ここ数年、災害があるたびに必ずと言っていいほど、被災地の空き家問題について、メディアから取材依頼がくるほどです。

 例えば、2019年6月の山形県沖地震や同年9月の千葉県南部の台風被害では、空き家が一気に危険な状態になったにもかかわらず、所有者等の経済的な理由で解体されずに残り続け、災害後も長期間、地域を危険な状態にしています。20年9月の台風10号では、九州および山口県で少なくとも3軒の空き家が倒壊し、そのせいで近隣の住宅が損壊するなどの二次被害に発展しました。21年7月に発生した静岡県熱海市の土石流では、災害発生エリア内に別荘を含む多くの空き家が含まれていましたが、一刻を争う救助活動の中で被災者の所在確認作業を混乱させる一因になりました。

 こうした空き家に対して、市町村が緊急措置に要した費用を所有者に請求する根拠が空家等対策特別措置法で明確化されていないことが、市町村による災害時の機動的な対応を難しくしているという切実な問題も顕在化しています。

 日本では、1203万世帯、実に4世帯に1世帯程度(国土交通省調べ)が災害ハザードエリア(土砂災害警戒区域・津波浸水想定地域・浸水想定地域のいずれかの地域)に居住する状況にあります。

 災害の多発化、激甚化の中では、ハザードエリアを対象に、平時から所有者情報をリスト化したり、地域防災計画や災害タイムラインに、空き家の存在を加味した対応を事前に盛り込んでおくことも必要な状況になっています。

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