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大空幸星 「親ガチャ」は絶望した若者たちの救いの言葉だ――眉をひそめる流行語で片づけてはいけない

大空幸星(NPO法人「あなたのいばしょ」理事長)
大空幸星氏
「望まない孤独の根絶」を目指すNPO法人「あなたのいばしょ」。この団体を立ち上げた大空幸星さん(23歳)は、親からの育児放棄に近い家庭環境で子ども時代を送ったが、高校時代の教師の支えで立ち直るきっかけを掴んだという。大空さんに「親ガチャ」という言葉の背景にある、若者たちの閉塞感について聞いた。
(『中央公論』2022年3月号より抜粋)
  1. ポップな語感の裏にある苦しみ
  2. もう死んでもいいと思っていた

ポップな語感の裏にある苦しみ

――2021年の流行語の一つにもなった「親ガチャ」という言葉について、大空さんはどのようにとらえていますか。

 僕自身がまさにそうでしたが、苦しい生活がずっと続くと、あるとき悟りのような、達観したかのような境地に至ります。これは多分、強いストレスから逃れるために、無意識のうちに自分から離脱し、自身を客観視することで起きている現象だと思います。

「親ガチャ」という言葉もこれに似ているのではないでしょうか。子は親を選べません。苦しい家庭環境に生まれてしまった運命の偶然性をスマホゲームの「ガチャ」になぞらえてできた言葉なのだと思います。いつしかこの言葉は広がり、流行語にもなって、最近はその意味やニュアンスが軽くなりました。けれど高校生だった僕が初めて親ガチャという言葉を聞いた5、6年前は、不条理な苦しみ、絶望の中から脱却し、自己肯定を図るための救いの言葉に感じました。大人たちは親ガチャを忌まわしい言葉として眉をめますが、そのポップな語感の裏には、状況を突き放さざるを得ない苦しみが本来はあったのだと思います。

 かつて一部のセラピストや絵本作家が、これとは反対の言葉、「子は親を選んで生まれてくる」というようなことを盛んに発信していました。でも、そんなことあるわけがありません。僕だって、選べるのなら自分のような家庭環境には生まれたくなかった。さらには悲惨な家庭環境の中、親からの虐待で命を落とす子どもたちだっています。その子たちは、親を選んで生まれてきたのでしょうか。つまり、親ガチャは単なる流行語ではなく、「悲しい、あってはならない言葉」として片づけてはならない言葉なのです。この言葉の生まれた背景をよく見ていかなければならないと思います。

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