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大空幸星 「豊かさはいらない」と社会に声をあげる若者は1割――「親ガチャ」をカジュアルに使うことへの違和感

大空幸星(NPO法人「あなたのいばしょ」理事長)

親への憎悪が薄らいだ言葉

――インターネットやSNSが普及したことで情報が得やすくなり、他人との比較が容易になりました。しかし、それがかえって人の苦悩を生んでいるとも聞きます。

 はい、インターネットやSNSの影響は大きいと思います。格差そのものは、知らなければ何も苛まれることはないでしょう。しかしSNSは、自分と他人の人生を簡単に比較できるようにし、その格差を簡単に可視化します。これに苦しむ人が多い。他人と比較することで、自分が置かれた生活や状況の不条理さに悲観的になってしまう人は少なくありません。

 実際、僕の大学の知人には裕福な人が多く、彼ら彼女らのインスタグラムを見ると、このご時世でも海外旅行をしている人が少なくありません。生活レベルの違いをまざまざと見せつけられます。でも、1年に1、2度食事に行く程度の友人や、もう何年も会っていない高校時代の友人の私生活を見て、苦しくなる必要はないんですよね。(笑)

 他人と比較することで、自分の置かれた境遇を、「親ガチャ」と卑下する人もいるでしょう。でも僕は、冒頭でもお話ししましたが、「親ガチャ」という言葉に救われました。なぜ自分だけこんなに重いものを背負わなければならないのかと、世の中の不平等さに苦しんでいたとき、それは僕自身が悪いわけではなく、たまたま当たってしまっただけだと形容してくれる「親ガチャ」、そしてもう少し前に流行った「毒親」という言葉に偶然性を認めてもらったことで、親への憎悪の感情は薄らいでいきました。

 いまは、母に対しても父に対しても無感情です。昔のように、死んでほしいとも思いません。無の境地です。きっと二人のお葬式に行くことはないでしょう。そして、それでいいんだと思っています。親との関係には偶然性があり、家族と縁を切っている人もたくさんいます。

 ただ流行語大賞に「親ガチャ」という言葉が入ったことには、少し不満を抱いています。壮絶な境遇にいる人たちが、生きていくことを確保するために生み出し、大切にしてきた言葉が、あまりにカジュアルに使われすぎているのではないか、それがまた苦しんでいる人を孤独に追いやってしまうのではないかと不安を感じています。

構成:長谷川あや

中央公論 2022年3月号
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大空幸星(NPO法人「あなたのいばしょ」理事長)
〔おおぞらこうき〕
1998年愛媛県生まれ。2018年慶應義塾大学総合政策学部に入学し、現在も在学中。20年に「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目指し、NPO法人「あなたのいばしょ」を設立。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員などを務める。

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