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森本修代 赤ちゃんポスト、内密出産で浮かび上がる、子どもの「出自を知る権利」

森本修代(新聞記者)

「内密出産」は福音か?

 赤ちゃんポストで問題視されるのは、子どもに「出自を知る権利」が保障されないことだ。また、医療の介助を受けず一人で出産する「孤立出産」を防げないことも問題として横たわる。

 これらの問題を解決しようと考え出されたのが、匿名で出産できる「内密出産」だ。慈恵病院は内密出産を「独自に運用する」と19年12月に発表。21年12月には内密出産を希望する女性が子どもを出産し、「国内初」として大きく報道された。

 内密出産は赤ちゃんポスト同様、ドイツがモデルだ。ドイツでは00年に赤ちゃんポストが設置され、全土に広がった。しかし匿名で子どもを預ける行為が合法なのか問題となり、政府に政策を提言するドイツ倫理審議会が検証することとなった。09年に公表された審議会の見解では、「ポストがなければ殺害されていたと推定されるケースは一例もなく、新生児遺棄の回避はできない」「出自を知る権利がないことは子どもの人格権を侵害する」として、赤ちゃんポストの廃止が勧告された。

 その代わり、妊娠・出産を知られたくない女性のために、相談機関では実名を明かし、医療機関では匿名で出産する「内密出産」が考案され、14年に法制化された。子どもは16歳になれば母親の情報の開示を求めることができる。母親側が拒んだ場合、家庭裁判所が開示するかどうか決定する仕組みだ。

 慈恵病院の「内密出産」は、ドイツの制度を参考にして、妊婦は新生児相談室長のみに身元を明かし、匿名で出産するとしている。

 制度化されたものではないため、子どもの戸籍が作れるのかどうかが問題となった。ポストに預けられて親が不明の場合と同様に、「一人戸籍」を作る場合、法的には「棄児」となる。親の情報を把握した病院で生まれた子どもを「捨て子」にしていいのか、という問題が発生する。

 そもそも子どもが生まれた場合、戸籍法では14日以内の届け出が義務付けられており、親に事情があって提出できない場合、出産に立ち会った医師や助産師が「届け出をしなければならない」と規定されている。

 今回のケースでは、病院は当初、親の名前を空欄にした出生届を提出する予定だったが、熊本市から、母親の名前を知りながら空欄で出生届を出すことは刑法の公正証書原本不実記載罪に当たる恐れがあると指摘された。このため病院は熊本地方法務局に対し、罪になるのか質問状を提出。法務局は「個別に判断されるべき」事柄として、「回答しかねる」とした。

 しかし、同時に同法務局は、無戸籍者を出さないために、「出生届の提出によらずとも市区町村長の職権により戸籍の記載ができる」とし、これを受け、熊本市の大西一史市長は職権で戸籍を作ると明らかにした。

 この内密出産をした女性は、健康保険証と学生証のコピーを病院に託したという。しかし、これで子どもの「出自を知る権利」が保障されるかには疑問がある。保険証には現住所が書かれている場合もあるが、転居すればわからなくなるし、そもそも本籍地は書かれていない。病院に本籍地の情報があったとしても、そこから実母にたどりつくには、親子関係を証明する公的な書類がなければ難しいだろう。

〔後略〕

中央公論 2022年6月号
電子版
オンライン書店
森本修代(新聞記者)
〔もりもとのぶよ〕
1969年熊本県生まれ。静岡県立大学卒業。93年、熊本日日新聞社入社。96年、大学在学中にフィリピンクラブを取材・執筆した『ハーフ・フィリピーナ』で第15回潮賞ノンフィクション部門優秀作。著書に『赤ちゃんポストの真実』がある。(本稿は所属新聞社とは関係ありません)

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