知らないところで従業員が亡くなったことに
群馬県の感染者は保育施設に勤めていた。上司は「突然、保護者や近所に住む人たちから『あの人、自殺したって本当ですか?』という問い合わせがいっぱい来た。本人は中傷に苦しみ、さらに勝手に死んだことにされ、ショックを引きずっている」と明かした。
長野県内の感染者が勤務する会社の社長は、こう憤った。
「知らないところで、従業員が亡くなったことにされていて驚いた。誰が流しているのか、本当に気味が悪い」
判で押したように同じ自殺デマが、列島各地で次々と生まれたのはいったいなぜなのか。私たちはツイッターに着目した。
「自殺した」の投稿が広まり始めたのは20年4月初旬で、愛媛県の感染者のことが書かれていた。その後、高知、富山、山口、大分、長野など各県の感染者について、多数の人が同じような投稿をしており、広く拡散しているものもあった。
私たちは文化心理学が専門の立命館大学のサトウタツヤ教授に、何が要因になったのかを推測してもらった。サトウ教授は「ネット情報の先入観」が影響した可能性を指摘した。
情報は一般的に、伝達する人々の先入観や偏見によって次第にゆがんでいくという性質がある。サトウ教授は、次のような連鎖が起きたのではないかとみる。
1 「※※県で自殺した」との投稿がなされ、見た人に「そういうことが起きるんだ」との先入観が形成される。
2 他の県の感染者が中傷されていると知ると、「自殺するのでは」との臆測が広がる。
3 口コミなどで「自殺した」に変わり、投稿される。
4 見た人に先入観が形成される‥‥‥。
そのサイクルの中でデマが「複製」されたというわけだ。
私たちは、ツイッターでデマを広めてしまった人たちにも接触を試み、何人かから話を聞くことができた。鹿児島県の学生の感染に関して、こんな投稿をしていたのは東京の医師だった。