「感染者が地元で責められ自殺した」。なぜコロナ罹患の「デマ」は全国で同時多発的に発生したのか? 田舎町で起きていた事実
情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部
正義感でやった行為がデマを広める
〈鹿児島の知人から コロナに罹患した生徒は自殺未遂、お父さんは自殺されたそうです。生徒本人は学校に虚偽の報告をして福岡に行った挙句、コロナに罹患したことを相当周りから責められたとのことでした〉
投稿は2000回以上リツイートされた。
男性医師は私たちの取材に対し、「現地の有力者が言っていたので間違いないと思ってしまった。とても信頼している人だったし、さもありなんという話で信じてしまった。差別はダメだという思いでやったが、申し訳ない」と釈明した。
山口県の感染者については、九州の男性が、「暴言をはかれて自殺した」「家族もいるのにひどい」と投稿し、後に削除していた。この男性も投稿の理由を「友人二人から話を聞き、許せないと怒りが湧いた」と説明した。
しかし、耳にしたうわさが誤りであれば社会に混乱を及ぼし、感染者を傷つけることにもなる。それでも男性は、語気を強めて主張した。
「感染者をバッシングして自殺に追い込むような世の中はおかしいので『こんな風潮は正さなければいけない』という憤りがありました。私としては感染者の方の味方をしたつもりですよ」
正義感に駆られてやっている行為が、皮肉にもデマを広めてしまう。これもコロナ禍が浮かび上がらせた陥穽だった。
『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)
米大統領選→コロナワクチン→ウクライナ侵攻、次々に連鎖する陰謀論。誤情報をネットで流布する匿名の発信者を追い、デマに翻弄される人々の声を聞く――。高度化する"嘘"の裏側に迫るドキュメント。『読売新聞』長期連載「虚実のはざま」、待望の書籍化。