(『中央公論』2023年2月号より)
2022年5月、「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律」が、国会で成立しました。文部科学大臣が「国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学」を数校、国際卓越研究大学(以下、卓越大)に認定し、政府が科学技術振興機構(JST)に運用させる10兆円規模の大学ファンドの運用益から、年間数百億円ずつを助成する制度(以下、卓越大制度)です。22年12月に卓越大の公募が始まり、23年秋頃に結果が公表され、支援開始は24年度からとなります。
東京大学の年間予算が約2800億円で、小規模な国立大学では20~30億円程度ですので、大学ファンドからの支援は、日本の大学関連助成において前代未聞の規模です。一方で卓越大には、事業規模で年3%以上の実質成長率の達成、大学の最高意思決定機関として過半数の学外出身者からなる「合議体」の新設が求められます。この合議体は学長の選考・解任の権限をもつなど、ガバナンスの大改革が義務づけられます。
卓越大制度は、戦後日本の大学史上、4度目の大変革にあたるでしょう。最初が1948~49年の新制大学の発足、2度目は91年の大学設置基準の大綱化に伴う一般教養課程の廃止と、同年に事実上始まった大学院重点化政策、3度目は2004年の国立大学法人化で、これらに続く第4の衝撃がいまもたらされているのです。
筆者は近年の日本における大学改革の傾向を一言で表現するならば、「大学改革の国家主義化」がふさわしいと考えます。「国家主義化」というやや強い言葉を使うのは、政府が大学の研究・教育の中身や研究組織・教育組織のあり方にまで介入できるように、大学の自治を壊す傾向が顕著になってきたからです。
大学改革という言説が社会に広まったのは、20世紀末の大綱化・大学院重点化がきっかけでした。しかし後述するように、大学改革の国家主義化が始まったのは、まことに皮肉なことですが、全教職員が非公務員化された04年の国立大学法人化以降です。そして、今回の卓越大制度は、大学改革の国家主義化を極端に推し進めることになるでしょう。