2020年4月号【編集長から】

<「21世紀の危機」と闘う>
 アルジェリアの都市で原因不明の熱病が発生し、外部から遮断されたなかで、医師ら市民が苦闘する。新型コロナウイルスの感染拡大は、カミュの代表作『ペスト』を連想させます。ペストとは、さまざまな不条理の象徴なのでしょう。作中に印象的なせりふがあります。「われわれはみんなペストの中にいるのだ」「誰でもめいめい自分のうちにペストをもっているんだ」。
 今回、集団感染が起きたクルーズ船で活動した医療関係者やその子供らが、バイ菌呼ばわりされるなど不当な扱いを受けているそうです。感染者や接触者が心ない言葉をかけられることも多いと聞きます。あまりに不条理です。しかし、そうした偏見と自らは無縁と言い切れるかどうか。自分のうちにある「ペスト」と闘わなければなりません。
 今月号の特集は「21世紀の危機? 瀕死の民主主義と新型肺炎」と題しました。巻頭鼎談で、山内昌之さんは、感染症対策において公益と私益のバランスをどう取るかという問題を提起します。本村凌二さんは、古代ローマの独裁官は半年の期限付きだったと指摘します。グローバル化した近代社会が迎える「21世紀の危機」は、ペストが流行した14世紀や17世紀の危機とは全く異なる課題を突き付けています。
 日本では、無理をしてでも仕事に行く風潮が感染を広げたようです。そんな教訓をゆっくり考えられる日が来ることを祈るばかりです。

編集長 穴井雄治